商品の成長を
目に見える形で公開することが、
信頼されるメーカーであり続ける力
になると思っています
株式会社猫壱は、食器やおもちゃ、爪切り、爪とぎなど、猫の日用品を企画・販売しているメーカーです。猫の体型と習性、使いやすさなどを考えた商品は、猫の飼い主に高く評価されています。代表取締役社長の竹内淳さんと、同社ビジネス・デベロップメント・ディレクターの竹内康さんの兄弟が力を合わせ、こだわりの猫グッズをヒットさせてきた背景の一つには、Amazon出品サービスの活用がありました。
猫と飼い主の楽しい暮らしを考えた商品開発
猫壱の社名には、猫の暮らしを一番に考え、猫にとって最適な用品を企画・販売するという意味が込められ、猫と人の暮らしを豊かにすることを目指しています。そのこだわりから生まれた商品は、陶器の脚付きボウル型食器、ベッドにもなる爪とぎ、車での移動時などに便利なポータブルケージなど、飼い主の「ほしくなる気持ち」をしっかりとつかんだものばかりです。
代表取締役社長の竹内淳さんが、会社を設立したのは2008年のこと。当初は、アメリカにあるペット用品メーカーの商品をアジアで販売する総代理店としてスタートしました。
「子どもの頃から、弟の康と、いつか自分たちの会社を作りたいねと話していました。衛生用品メーカーのマーケティングの仕事などを経て、そろそろ起業したいと考えたとき、将来性を感じたのが、ペット用品の市場です。ただ当時、私は犬を飼っていたので、猫のことはよくわからなかったんです」(淳さん)
シェアを広げるため、日本での売り込みに奔走するうち、淳さんは猫の生活用品の少なさに気づきました。当時の日本は猫ブームが起こる前で、犬用品の市場規模のほうが大きいため、猫は犬と兼用のものが多かったのです。また、店頭に立って初めて気づいたのが、商品に対するお客様の反応でした。
「飼い主からすれば猫グッズ選びは本当は楽しいはずなのに、色や形、素材などの選択肢が少なく、犬のためのものを代用したり、消去法で選ばざるを得ない様子が商品を選んでいるお客様から伝わってきました。私たちが代理店をしていたメーカーが猫用品もいろいろ揃えていたことから、『こんな商品はないか』『こんなデザインのものがほしい』というお客様の声を聞くこともありました。ただ、代理店の立場でしたから、メーカーには要望を伝えることぐらいしかできませんでした。そこで、お客様のニーズに応えるために、自分たちで商品を企画・販売してみようと考えたのです」(淳さん)
そして、2013年に誕生したのが、猫壱ブランドです。この頃から、営業と販売の担当として、弟の康さんも経営に加わることになりました。
猫壱が最初に手がけたのはベッドにもなるハウス。次はトンネル型の猫のおもちゃでした。そして、3番目に企画したのが、大ヒット商品になった脚付きのボウル型食器です。フード用と水用を販売したところ、すぐにそれまでと一桁違うオーダーが舞い込んできました。あまりの売れ行きの良さに、竹内さんたちは「オーダー数が間違っていませんか?」と得意先に確認するほどだったそうです。
ヒットの理由は、猫が首を曲げすぎずにフードや水を口にできるよう、高さのある脚付きにしたこと。そしてプラスチックではなく、高品質な磁器製にしたことでした。それまで、猫の体への負担や安全を考えたり、生活の中に溶け込むようなデザインに配慮したりという視点は猫用の食器にはなかったからです。
「保護活動もしていた猫好きの社員や猫サイトのブロガーさんなどから意見を聞いたり、試作品をモニターしてもらったりしながら、作った商品でした。マーケティングの仕事をしてきた経験から、使う方の生の声が商品開発には欠かせないと思っていたからです。企画から完成するまでに1年ほどかかりました」(淳さん)
物流や市場調査にAmazonのサービスを活用
猫壱は、その後もポータブルケージや段ボール製の爪とぎなど、次々とヒット商品を生み出し、今では飼い主の心に寄り添ったブランドとして認知されています。その成長の一助になっているのが、Amazon出品サービスでした。
卸販売からスタートした猫壱が直接販売を手がけるようになったのは、2014年から。まずはアメリカで、Amazonのフルフィルメント by Amazon(FBA)を利用しての販売でした。
FBAは、Amazonの物流拠点であるフルフィルメントセンターに商品を送るだけで、商品の保管から注文処理、配送、返品に関するカスタマーサービスまで、Amazonが行うサービスです。
「アメリカは世界最大のペット市場ですから、以前から進出したいと思っていました。しかし当時、社員は私たちを入れて4人。リソースも資本も限られるなかで、海外で販売できるFBAは、とても魅力的なサービスでした。実際に始めてからは、こんなに簡単に海外の市場に進出できるのかと驚いたくらい。まさに日本にいながら売れる仕組みで、しかも海外の一等地に私たちの商品を詰め込んだ自動販売機を置いているような感覚です」(康さん)
アメリカでの販売は、倍々のペースで売り上げが増加していきました。当初は日本で作った商品がアメリカで売れるのか心配しましたが、日本のお客様の細かいニーズにお応えした商品がアメリカでは新鮮だったようです。2016年には、アメリカの好調さを受けて、日本でもAmazonでの販売を開始しました。
「私たちがAmazonでの販売を重視するのは、販売や物流のサポートだけでなく、お客様の声を聞くことができる情報収集の面でも助けられているからです。実は猫用品に関する市場データはほとんどありません。そのため、商品企画の参考になるのが、お客様が何に困っていて、何を求めているのか、という生の声です。このときにAmazonのランキングやカスタマーレビューが欠かせません。特にカスタマーレビューは、素早くお客様の反応を知ることができるので、私たちにとって、とても画期的なものでした」(淳さん)
猫壱では顧客ニーズの情報を収集するため、ブロガーやSNSのフォロワー、自社サイトの会員のネットワークも活用していますが、カスタマーレビューは、より広い意見を収集するのに役立っています。
「たとえば、新製品を企画するときに、カテゴリーでのヒット商品をチェックしたり、他社の商品レビューも確認してお客様のニーズを把握したりしています。また、自社商品の販売開始後はすべてのレビューに目を通し、不満が書かれていたら、参考にして改善点を見つけています」(康さん)
そして、猫壱では、改善した点は包み隠さず、商品情報に加えています。たとえば、段ボール素材の爪とぎを新発売したとき、カスタマーレビューに「猫が乗ったらバラバラに壊れてしまった」と書かれたことがありました。竹内さんたちはショックを受けましたが、その言葉を真摯に受け止め、強度を高めました。そして、改善のプロセスを公開したことで、ユーザーからポジティブな評価を再び得ることができました。
「商品の成長を目に見える形で公開することが、信頼されるメーカーであり続ける力にもなると思っています」(淳さん)
こだわりの商品が国内外の販路を広げる
猫壱の機能性やデザイン性、安全性を重視する姿勢がよく現れているのが、最近のヒット商品の爪切りです。これも、飼い主の「困りごと」に応える形で誕生しました。
猫壱のハサミ型爪切りは、一般的な猫用爪切りより刃先が長く、薄く作られています。持ち手は、右手でも左手でも使えるように左右対称。この仕様になったのは、すべて猫が嫌がらないように、飼い主が切りやすいように、という2点を徹底したからでした。
「後ろから猫を抱きかかえて切るには、従来の爪切りでは刃が短すぎます。そこで、切りやすいベストな距離を探っていきました。また、刃が厚いと猫の小さい爪が隠れ、どこを切ればいいのか分からなくなります。そこで、刃は極力、薄くしたんです。ただ、刃が薄くなると切れ味が悪くなり、猫が嫌がるバチンという切る音も出やすくなります。薄さと切れ味の両立には、何度も試作を重ね、苦労しました」(淳さん)
誕生までの苦労は、それだけではありません。製造会社を見つけるのにも時間がかかりました。切れ味のいい小さな爪切りを作るには、精巧な技術が必要になります。竹内さんたちは、刃物の生産地として有名な岐阜県関市の製造会社に当たりました。
「30社くらいに1社ずつ電話をかけて打診しました。売れるかどうかも未知数の猫用の爪切りに興味を持ってくれる会社は本当に少なくて……。最終的に1社に協力いただけることになったんです」(淳さん)
完成した爪切りは、一般の製品より3倍ほどの金額になりましたが、苦労は報われ、日本でもアメリカでも大ヒット商品になりました。
現在、猫壱の商品アイテム数は、カラーやサイズバリエーションも含めて、日本では60ほど。アメリカ向けはそれよりもカラーの豊富さから数が多くなっています。最近は、「necoro」というAmazon限定ブランドも始めました。
竹内さんたちは、「ネット通販が普及したことで、メーカーとお客様がつながりやすい時代になった」と話します。
「ネット通販がなかった頃は、流通ルートと強いつながりを持っているかどうかが売り上げの鍵を握っていました。お客様ではなく、店舗の担当者の好みが優先されるということも少なくなかったんです。でも今、売り上げを左右するのは商品力です。Amazonでは、ポジティブな商品レビューが多ければ多いほど、販売数は増えていきます。ネット通販は、私たちのような小さな会社でも、商業の一等地に販売機を置いているようなビジネスを可能にしてくれました。それも、国内だけでなく、海外にも販売チャネルを持つことができるんです。猫壱は、これからも今の流れを大切に、飼い主さんたちと一緒に商品を作り、楽しくビジネスを展開していきたいと思っています」(淳さん)