コロナ禍を脱し、市場規模が回復傾向にある宿泊業界では、どのようなDXが進んでいるのでしょうか? 今回は、Amazonビジネスを活用し、おもてなしと顧客体験の質を高める中小企業2社の取り組みを紹介します。

しまなみ海道でサイクリストのための総合施設を運営

広島県尾道市と愛媛県今治市を結び、瀬戸内海と芸予諸島の島々が織りなす絶景で知られる「しまなみ海道」。サイクリストの聖地としても有名なこの地で、株式会社わっかはサイクリング総合施設「WAKKA」を運営しています。代表取締役 CEOの村上あらしさんは、芸予諸島の美しさにほれ込み、東京から移住してきたと言います。

海が見える場所に立つ紺色のシャツを着た笑顔の男性
株式会社わっか 代表取締役 CEO・村上あらしさん

村上さん「東京でIT企業を経営していたころ、サイクリングに夢中になり、全国各地を走りました。その中でも、しまなみ海道のある芸予諸島の美しさは別格で、多島美を楽しめるサイクリングコースは世界有数です。にもかかわらず、コースにはサイクリングのサポート施設がほとんどない。だったら自分で作ろうと移住を決意したのです」

IT企業を売却し、2018年に起業。2020年、コースの中間地点である大三島(おおみしま)に、自転車を持ち込めるホテルやカフェを備え、サイクリングサポートサービスを提供する「WAKKA」をオープンしました。

村上さん「ゼロからのチャレンジだったので、立ち上げは本当に大変でした。でも、自転車が大好きだから、毎日が本当に楽しい。レンタサイクルの乗り捨て対応やリタイア時のサポート、冷凍おしぼりの提供など、サイクリストの視点に立ったサービスを心がけています」

お客様の全体の約3割は外国人。彼らの目当てはしまなみ海道でのサイクリングです。日本人でサイクリングを楽しむお客様も約3割だと村上さんは言います。

村上さん「日本人のお客様は芸予諸島をドライブして、おいしいものを食べてと、サイクリング以外の観光を満喫されています。当初からそうしたお客様のニーズも想定し、オーシャンビューの客室や地元食材を使ったバーベキューなど、サイクリング以外の部分にもこだわってきました。もちろん、『せっかくだしサイクリングしてみようか』と、自転車の魅力に触れてくださるお客様がいるとうれしいですね」


テント内部の様子。広く、ベッドとエアコンがあり、ガラス窓がついている。
瀬戸内海を望むグランピング・ドームテントをはじめ、3種類の宿泊施設を用意している
海と橋が見えるウッドデッキ
多々羅大橋を望むコテージは、海風を感じられるオープンテラス付き
木材が生かされたシンプルなデザインの室内
地元今治のタオルを使うなど、備品やアメニティにもこだわっている

Amazonビジネスのメリットは品揃えが豊富で、離島でも欲しい商品がすぐに届く

観光地として多くの魅力を兼ね備える芸予諸島ですが、アクセスの利便性は高くありません。「近くの店に目当ての商品がないときは、自動車で数時間かけて都市部まで購入しに行くことも日常茶飯事でした」と村上さんは振り返ります。

村上さん「そこで、法人価格・数量割引で商品を購入できるAmazonの法人向けのビジネスアカウントを取得しました。Businessプライム会員に登録すると、対象商品はお急ぎ便・当日お急ぎ便が無料で利用できるので、毎日のように利用しています。以前、歯ブラシ100本が急きょ必要になったのですが、翌日に商品が届いて感動しました。離島でもすぐに商品が届くので助かっています」

Amazonと同様のAmazonビジネスの品揃えの豊富さも、大きな魅力だと村上さんは続けます。

村上さん「文房具や照明器具など、主にホテルやカフェで使う備品や消耗品を購入しているのですが、品揃えが本当に幅広いですね。自転車のチューブやタイヤ、釣具や害獣対策の機器など、ニッチな商品もすぐに見つかる点も重宝しています。複数のお店に買い物に行く手間が減ることはもちろん、1か月分の購入代金をまとめて後払いできる請求書払いがあるので、買い物をするたびに発生していた経費精算の手間も減りました」

村上さんはプライベートでもAmazonを利用し、商品を購入することが多いと言います。

村上さん「欲しい商品を買いに都市部へ行くとなると、自動車で片道1時間。ガソリン代も高速料金もかかります。その時間と費用は大きなロスです。AmazonやAmazonビジネスがあるからこそ離島で生活していても不便さを感じませんし、プライベートな時間を増やすことができていると思います」

パソコン画面にグラフが表示されている
購買データが可視化されるので、的確な購買計画を立てることができる
タブレットを見ながら話し合いをしている男女。村上さん夫妻
購入する備品などは、「WAKKA」の総支配人であり妻の仁美さん(右)と相談しながら決めている
黄色いサイクリング用の自転車を前に笑顔を見せる女性
レンタサイクルや工具の無料貸し出しなどのサービスがサイクリストの支持を集めている

地域の魅力を高め、芸予諸島を世界に発信したい

Amazonビジネスのほかにも、同社は経営のデジタル化を推し進めています。

村上さん「IT業界で働いていたこともあって、チェックインのシステムや人事管理など、積極的にデジタルを活用しています。DXによって業務効率化や無駄なコストを削減することで、お客様へのおもてなしに時間をかけ、設備を充実させることができています。お客様の満足度や体験価値を向上させるために、DXは欠かせませんね」

そうした取り組みの根底にあるのは、「芸予諸島全体を盛り上げていきたい」という思いです。

村上さん「『WAKKA』では、アクティビティツアーを提供する旅行代理店業や、自転車を運搬する貨物業、海上タクシーなどの旅客運送業も行っています。島と島の間を行き来できるインフラを整備して、その先にレンタサイクルやシェアサイクルも設置すれば、行動範囲が広がり、新しい発見もできると思います。さまざまな方向から地域の魅力を高めることで、芸予諸島を世界に発信していきたい。自分にとって芸予諸島は、世界に胸を張って誇れる特別な場所なんです」


京都の町家をリノベーションした宿泊施設を展開

京都にある旅館「Nazuna」は、国際的なガイドブックで星を獲得するなど、オープンから数年で高い評価を得ています。宿泊施設の開発・運営を手がける株式会社NAZUNAの代表取締役・大門真悟さんは、2018年の創業の経緯をこう振り返ります。

京町家の前に立つ笑顔の男性
株式会社NAZUNA 代表取締役・大門真悟さん

大門さん「当社の前身となる会社で、外国人観光客向けの旅行プランを作成し、アテンドする旅行業に携わる中で、京都に残る伝統的な町家に泊まりたいというニーズの高さに気づきました。町家をリノベーションし、宿泊施設に生まれ変わらせれば、お客様のニーズを適え、日本の伝統文化を守ることにつながると考えたのです」

前身時代の2016年にオープンした「Nazuna 京都 二条城」をはじめ、現在は京都で宿泊施設を10か所運営しています。

大門さん「旅行業で得たデータをもとに、伝統とモダンが交差する宿泊施設の空間を設計していきました。反対に、接客はデータにもニーズにもとらわれない、おせっかいを目指しています。ニーズを起点とした受け身のおもてなしではなく、自分がされてうれしいことを人にもしてあげたいという想いを起点にしています。おせっかいもまた、失われつつある日本の伝統文化の1つではないでしょうか」

社内では、最もおせっかいをした従業員を月ごとに表彰するなど、同社のおせっかいへのこだわりは並々ならぬものがあります。

大門さん「足の悪いお客様のために車椅子を自発的に用意し、感謝されたエピソードなど、従業員が行ったさまざまなおせっかいをシェアしています。お客様に対してもそうですが、取引先にも、地域にも、宿泊業界にも、色々なところにおせっかいをしているのが当社の特徴です。おせっかいを通じて多くの人との絆やつながりが生まれることが、私たちが目指している世界のゴールなんです」

椿通と書かれた石が立つ街並み
「Nazuna 京都 椿通」は、築100年以上の町家が立ち並ぶ路地一角を改修し、宿泊施設にしている
ベッドの向こうの窓の先に露天風呂が見える
取り壊される予定の町家をモダンな雰囲気にリノベーションした「Nazuna 京都 椿通」
和室の様子。壁には和柄の飾りがついている
モダンな要素を取り入れ、伝統的な家屋の造りや調度品などを際立たせている

Amazonビジネスによって、お客様のご要望に応えられる幅が広がった

心を込めたおせっかいを形にする際、Amazonビジネスでの購買が役に立っていると大門さんは言います。

大門さん「例えば、特別な日をお祝いするお手伝いは当社の人気サービスです。誕生日会やプロポーズを計画しているお客様のご意向をじっくりとお伺いし、一緒にサプライズを作り上げています。花束やクラッカー、宿泊する部屋を飾る装飾品など、必要なアイテムをAmazonビジネスで購入しています。品揃えが豊富なAmazonビジネスのおかげで、買い出しに行く手間が省け、お客様のご要望に応えられる幅が格段に広がりましたね」

複数ある宿泊施設の従業員全員がAmazonビジネスを利用できるように設定することで、業務効率化にもつながっています。

大門さん「Amazonビジネスでレポーティングや分析用に購買グループを作成し、宿泊施設ごとにユーザー(従業員)を振り分けて、施設ごとの購入品を把握しています。経費処理は一括で便利ですし、Amazonビジネスとクラウド会計ソフトを連携させているので、バックオフィス業務は最小限の人数で対応できています」

また、Amazonビジネスの操作のしやすさも魅力だと言います。

大門さん「プライベートで使い慣れたAmazonの商品表示や購入方法と変わらないので、従業員に操作方法などを説明しなくてもAmazonビジネスを利用できています。各施設の月別の購買金額といったデータを可視化する購買分析ダッシュボードにしても、直感的でわかりやすく表示されるので助かっています」

Happy Birth Dayと書かれたシールや、造花など
豊富な品揃えのAmazonビジネスで購入した、特別な日をお祝いするためのアイテム
ホテルのカウンターで打ち合わせをしている男性2名
支配人の大塚さん(左)と相談しながら、顧客体験を高めるためのアイテムの購入を検討している
カウンターで日本酒を差し出すスタッフ
チェックイン時に振る舞うウェルカムドリンクは「Nazuna」のおせっかいの代表的なもの

宿泊業界の革命集団を目指し、従業員の働きがいも追求する

Amazonビジネスを筆頭に、同社はAIによるシフト作成や給与の見える化など、先進的なデジタル活用を行っています。その先に見据えるのは、「宿泊業界の革命集団になること」だと大門さんは言います。

大門さん「顧客満足度を高めることはもちろん、従業員の働きがいや働きやすさも追求していきたいと考えています。宿泊業を通じた地方創生も行っており、過疎化を課題に持つ宮崎県の飫肥(おび)地区と連携し、伝統的な武家屋敷をリノベーションした宿泊施設を展開しています。それから、温泉事業への進出といった新たな分野にも挑戦したい。おせっかいの精神で宿泊業界に変革をもたらしたいですね」

Amazonビジネスをはじめ、積極的にDXを推し進める株式会社わっかと株式会社NAZUNA。両社は、顧客体験の質を高めるための商品の購入にAmazonビジネスを活用し、業務効率化によってお客様へのおもてなしの時間を創出しています。モノ(商品・サービス)、コト(体験)が重視される宿泊業において、DXはこれまで以上に重要な役割を果たしていくでしょう。


Amazonビジネスとは?

Amazonが提供する法人向けのEコマース事業です。ビジネスアカウントを取得いただくと、ビジネス購買の効率化、法人価格・数量割引での商品の購入、Businessプライム(一部有料)に登録することで対象商品のお急ぎ便や当日お急ぎ便を追加料金なしで利用できるなど、さまざまなサービスを利用することができます。

2022年のシリーズでは、事業承継、地域活性化、働き方改革などの社会課題の解決のためにDXを活用した事例や農業や水産業などの第一次産業における中小企業が実践するDXについてご紹介しています。

本連載について

Amazonでの販売を支援する「Amazon出品サービス」、ビジネス上の購買をサポートする法人向けサービス「Amazon ビジネス」、決済サービス「Amazon Pay」、クラウドサービス「アマゾン ウェブ サービス(AWS)」など、Amazonはさまざまな企業の課題を解決する多様な選択肢を提供しています。本連載では、DX(デジタル・トランスフォーメーション)に取り組む中小企業と、そのDXをさまざまなカタチで支援するAmazonのストーリーをご紹介します。

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