日本の企業の約9割を占める中小企業(小規模事業者含む)は、日本経済にとって非常に大きな存在です。そして、その多くがDX(デジタルトランスフォーメーション)を推し進め、ビジネスに変革をもたらす活動を行うと共に、中小企業の数だけ挑戦のドラマが生まれています。デジタルが切り拓く中小企業の未来とAmazonのサポートを紹介する連載企画の第15回は、中小企業のDXを支えるAmazonの社員にフォーカスします。
※本記事は、2021年11月25日に日本経済新聞および日本経済新聞電子版に掲載された記事を加筆したものです。
社会全体でDXが加速し、デジタル人材の確保が急務と言える中で、Amazonはどのように中小企業をサポートしているのでしょうか? 前回は中小企業の視点から、Amazonが中小企業におけるデジタル人材のアウトソーシングを実現し、同時に重要なビジネスパートナーにもなり得ることを紹介しました。今回は、Amazonの社員の視点から、Amazonによる中小企業支援の具体例や、そこに込められた想いを掘り下げます。
販売事業者様を二人三脚で支える
Amazonには、ECビジネスを展開する販売事業者様をサポートするアカウントマネージャーという職種が存在します。藤本彩さんは、そんなアカウントマネージャーの中でも、Amazonグローバルセリングを利用して海外販売に挑む中小企業を支えてきました。
藤本さん「Amazonが展開している海外のマーケットプレイスに出品できるAmazonグローバルセリングは、日本にいながら世界中に販路を広げられるサービスです。一方、中小企業の販売事業者様の中には、『英語が苦手』『配送のツテがない』ことを理由に、海外での販売に対してハードルが高いと感じられる方もいらっしゃいます。そうした販売事業者様をサポートすることが私たちの仕事です。販売事業者様がどのような商品を販売していて、どのようなビジョンをお持ちなのかをお伺いし、販売事業者様が海外販売を実現できるよう、二人三脚で計画を立てていきます」
海外販売では商品のラベル表記や配送、認証手続きや税制など、専門知識が必要な場合が多いため、専門の事業者を紹介することも業務の一環です。
藤本さん「海外での出品アカウントの作成方法や翻訳会社の紹介などを含め、海外販売に関して私たちがお伝えできる情報はすべてお伝えしています。海外販売担当というと華やかな業務を想像されるかもしれませんが、実際には地道にこつこつと頑張っています(笑)。販売事業者様にフルフィルメント by Amazon(FBA)をご利用いただければ、現地に物流拠点がなくても商品の保管から注文処理、配送、返品に関するカスタマーサービスを一括してAmazonがサポートします。また、海外販売においても日本語対応のご案内もあります。こうしたサービスと人的なサポートの両面でお手伝いできるのがAmazonならではの強みだと思います。海外販売を実現した販売事業者様に『意外と簡単にできました!』と言っていただけることも多いですね」
本連載のVol.2で取り上げた、猫に特化したオリジナルのペット用品を海外にも展開している株式会社猫壱も、藤本さんが担当した中小企業のひとつ。猫壱の場合は、類似品を防ぐサービスを提案したと藤本さんは振り返ります。
藤本さん「海外ではヒット商品の類似品が安価に製造・販売され、正規品の売上に影響が出てしまうケースがあります。そこで、まずは登録商標を明示し、知的財産を保護するAmazonブランド登録をご案内し、さらに踏み込んでTransparency(トランスペアレンシー)プログラムもご提案させていただきました。Transparencyプログラムは、商品をシリアルコードで個別に特定し、偽造品がお客様の手に渡ることを事前に防止するサービスです」
販売事業者様に「ありがとう」と言われることが一番のやりがい
販売事業者様にさまざまな提案をし、密なやりとりを重ねる仕事だからこそ、感謝の言葉をかけてもらうことが喜びにつながっていると言います。
藤本さん「入社1年目の頃、ある販売事業者様から『ECビジネスを続けてきて10年、藤本さんのおかげで過去最高の売上を記録しました! 本当にありがとうございます』というメールをいただいたときは感動して、涙がこぼれました。そのメールは何度も読み返して、毎日の励みにしています」
学生時代に留学を経験し、「海外で日本の食品や食器が高く評価されているのを見て以来、メイドインジャパンの力を世界に広めたい!」と考えていた藤本さん。その念願が叶い、日本貿易振興機構(JETRO)とAmazonが日本企業の海外販売を支援する「JAPAN STORE プログラム」にも携わっています。米国のAmazonにおいて品質の高い日本製品を特集し、地方創生にもつなげていく新たな取り組みです。
藤本さん「日本には、老舗企業の商品や伝統工芸品はもちろん、電化製品やアニメの関連グッズをはじめ、海外では知られていない優れた製品がまだまだたくさんあります。『JAPAN STOREプログラム』を通して海外のお客様からのニーズが一気に高まると思うので、日本製品の新しい魅力を届ける後押しをしていきたいですね。将来的に海外販売ならAmazonと認知されるように、これからもたくさんの販売事業者様をサポートし、メイドインジャパンを世界に発信するお手伝いをしていきたいです」
販売事業者様の真の課題を考える
Amazonには、担当する中小企業と共に二人三脚で戦略を練り、サポートを担うアカウントマネージャーがいる一方、すべての販売事業者様からの問い合わせに対応する職種、セラーサポートも存在します。三枝佑輔さんは、100人以上のオペレーターが日々、販売事業者様からの出品や販売のプロセスにおける細かなオペレーションなどの問い合わせに対応する札幌オフィスでサイトマネージャーを務めています。
三枝さん「全国の販売事業者様から、出品手続きに関する管理画面の操作や、出品にあたり遵守いただく規約などについてお問い合わせをいただいています。そうした質問に対し、電話やメール、チャットで応対しています。Amazonはできるだけわかりやすいシステムの構築を目指していますが、初めてAmazonに出品される方、インターネットに不慣れな方もいらっしゃいますので、丁寧で細やかな説明を心がけています」
Amazonのセラーサポートには、丁寧な対応のほかにも、ある特長が存在するといいます。
三枝さん「同じ内容のお問い合わせであっても、その背景にある販売事業者様の状況や悩みは千差万別です。それらに臨機応変に、また、お一人おひとりの立場に立って親身に対応できるように、大枠のマニュアルはありますが、あえて現場のスタッフの裁量に任せている部分が多いんです。それを可能にしているのが、スタッフ全員に根付いているリーダーシップ・プリンシプルです」
リーダーシップ・プリンシプルとは、Amazonが世界共通で掲げる16項目の行動指針のこと。社員全員がリーダーであるという考えのもと、常にお客様を起点に行動し、地球上で最もお客様を大切にする企業になるというミッションを粘り強く追求するための指針として、Amazonを支える基礎になっています。
三枝さん「販売事業者様のご質問に対してただマニュアルに沿って答えるのではなく、そもそも販売事業者様はなぜ困っているのか、どういうところに問題や課題があるのかを考えるようにしています。お問い合わせへの回答がシステム上のルールだとしても、きちんとその背景にある状況をお伺いし、販売事業者様の気持ちを考えて対応するようにスタッフに伝えています」
その想いに至った理由は、三枝さん自身の体験にありました。現在のようにセラーサポート全体の品質や生産性のマネジメントを担う以前、オペレーターとして対応に当たっていた頃の出来事です。
三枝さん「私は前職がシステムエンジニアだったため、当時は販売事業者様に対してつい専門用語を使ってしまっていました。そんなとき、パソコンの基本的な使い方から出品・販売までをサポートする機会がありました。その販売事業者様から後日、売上が伸びたと感謝の言葉をいただいたときはすごくうれしかったですね。その方との出会い以来、パソコンが苦手でもAmazonに興味を持ってくださる方がたくさんいることを肝に銘じ、平易な言葉づかいで親身に対応することを心がけるようになりました」
チーム一丸となって販売事業者様を想う気持ちを世界に発信したい
販売事業者様と直接やり取りするからこそ、ご要望やお悩みを具体的に把握できるのもセラーサポートの特長です。時には販売事業者様の声を他部署と共有し、Amazon全体で課題解決や改善に取り組んでいます。
三枝さん「お問い合わせが多い内容については、サイトのシステムを抜本的に改善する施策を社内に提案したり、販売事業者様からのご要望が多い商品に関する規約を変えられないかと他部署に掛けあったりしたこともあります。他部署とは情報共有ミーティングを定期的に行い、販売事業者様が感じられている課題や事例を共有するようにしています」
日本のAmazonのセラーサポートの品質は、世界のAmazonマーケットプレイスの中でも、各販売事業者様に合わせて丁寧に対応していると高い評価を得ています。
三枝さん「販売事業者様の声に耳を傾け、チームで連携して対応してきたことが評価されていることに素直に喜びを感じています。今後は日本のセラーサポート対応の品質を世界に向けて発信していけたらと思います」
アカウントマネージャーとセラーサポート。職種は違っても、常に販売事業者様を起点とし、一人ひとりに合った親身で丁寧な対応を行っているAmazon。デジタル人材の不足が叫ばれる今、Amazonの中小企業支援によって、さまざまな規模でのDXが進んでいるようです。
~デジタルが切り拓く中小企業の未来~
Vol.1 彼女たちはいかにして道を切り拓いたか?(前編)
Vol.1 彼女たちはいかにして道を切り拓いたか?(後編)
Vol.2 なぜ、彼らは海外進出で成功を収めたのか?
Vol.3 コロナ禍で成功を収める中小企業の共通点とは?
Vol.4 常識を覆すヘルスケア製品はなぜ生まれたのか?
Vol.5 事業を受け継いだ彼らが 変革を成し遂げるまで
Vol.6 ヒット商品はいかにして生まれるか?
Vol.7 SDGsを背景にしたリユース市場の最前線
Vol.8 進化するEC市場、新たなDXで成功を掴む
Vol.9 地方自治体×Amazon。新たな地域活性化の形とは?
Vol.10 DXは老舗企業のビジネスをどう変えるか?
Vol.11 DXが生み出す地方創生の新しい形
Vol.12 なぜ、彼らのECビジネスは短期間で急成長したのか?
Vol.13 ECビジネスを加速させるブランディング戦略の新発想
Vol.14 中小企業のDXを加速させるAmazonのサポートとは?
Vol.15 中小企業のDXを支えるAmazon社員の想い
Vol.16 コロナ禍を乗り越えた飲食業のDX最前線
Vol.17 日本の中小企業が世界に羽ばたくために