日本の企業の約9割を占める中小企業(小規模事業者含む)は、日本経済にとって非常に大きな存在です。そして、その多くがDX(デジタルトランスフォーメーション)を推し進め、ビジネスに変革をもたらす活動を行うと共に、中小企業の数だけ挑戦のドラマが生まれています。デジタルが切り拓く中小企業の未来とAmazonのサポートを紹介する連載企画の第14回は、中小企業のDXを支えるAmazonのサポートをご紹介します。
※本記事は、2021年11月9日に日本経済新聞および日本経済新聞電子版に掲載された記事を加筆したものです。
2021年9月に創設されたデジタル庁では、民間から多くのデジタル人材が登用されました。デジタル人材とは、デジタル技術を駆使した新たな価値創造の担い手のこと。社会全体でDXが加速する今、デジタル人材は政府や企業にとって不可欠となり、人材獲得競争はますます激しくなると予想されます。
そんな中、Amazonはさまざまな形で中小企業のDXをサポートしています。中小企業にとって、Amazonはデジタル技術を駆使した新たな価値を創造するためのパートナーであり、デジタル人材のアウトソーシングにもなり得る可能性を秘めています。Amazonはどのように中小企業のDXを支えているのか? 今回は中小企業の視点からご紹介します。
セラーカンファレンスでの刺激的な出会い
匠の技株式会社の代表取締役・武藤健一さんの経歴は異色です。2004年、趣味で米国のECサイトで日本製品の販売をスタート。2009年には米国Amazon.comでの販売を開始し、2012年、EC事業に専念すると同時に米国法人を立ち上げた、まさにECビジネスの先駆者といえる存在です。
武藤さん「2004年当時は趣味の域を出ませんでしたが、Amazon.comに日本製の腕時計や文房具、玩具などを出品すると、売上規模が次第に大きくなっていきました。当時は日本製品を扱う競合も少なく、米国でのAmazon.comの市場規模も拡大していたので成功を収めることができたのです。起業する際は、海外と日本の優れた製品をつなぐ橋渡し役になりたい、優れた技術を紹介したいという想いから、社名を匠の技としました」
当時も今も、社員は武藤さんと奥様のみ。Amazon.comでの売上規模が大きくなると仕入れなどの負荷が増えてきたことから、2014年、「仕入れに頼らない、自分たちのブランドを日本で一から育てよう」と日本法人を立ち上げました。その翌年、ターニングポイントとなる出来事が起こります。
武藤さん「ニューヨークで開かれたAmazon主催の販売事業者向けイベント、セラーカンファレンスに招待され、販売強化のためのヒントを得ました。そこで老舗宝石ブランドの担当者と知り合い、彼らがAmazon.comで200万点以上のジュエリーを販売し、大成功を収めていることに衝撃を受けました。そして、将来的に日本でも高価なジュエリーをECで購入する時代が訪れると確信したのです」
商品の安心感とAmazonの信頼感を重視
幼少期から貴金属に興味があり、いつの日かジュエリーを販売したいと考えていた武藤さん。2015年からジュエリー製造に着手し、2019年にジュエリーブランド、フェアリーカレットが誕生。日本のAmazon.co.jpで販売を始めます。
武藤さん「シルバーやジルコニアのジュエリーを作るなど、試行錯誤を重ねた末に誕生したのがフェアリーカレットです。18金や純金、プラチナジュエリーをメインに、ネックレスやリング、ブレスレットなどを展開しています。2015年当時、日本では高価な商品をECで購入する意識は薄かったですが、ここ2年で一気にECが生活に浸透し、その意識は払拭されました。フェアリーカレットも年々売上が増加しています」
売上増加の要因を武藤さんはこう分析します。
武藤さん「重要なのは安心と信頼です。フェアリーカレットでは造幣局による貴金属製品の品位試験に合格した刻印付きのジュエリーを扱っており、お客様に満足していただける品質を保証しています。それに加えて、お客様のAmazonへの信頼感も大きいですね。私たちのような新規参入ブランドでも、『Amazonで買うなら安心』というイメージが定着していると思います。また、カスタマーレビューで高評価をいただくことで、それを見たお客様が安心感を抱き、購入に結びつく好循環も生まれています。私たちもお客様の声によって改善策を見出し、常にお客様に安心していただくための方法を探っています」
Amazonのサポートもビジネスを前進させたと武藤さんは言います。
武藤さん「いま思えば、セラーカンファレンスで得た確信が現実のものとなっており、刺激的な出会いの場を与えてくれたAmazonに感謝しています。さらに、Amazonの担当者は『何か困ったことがあればいつでもサポートします』と言ってくれて、さまざまなアドバイスを受けて商品点数を拡充するに至りました。進化を続けるAmazonの広告サービスについて学ぶオンラインセミナーにも参加しています」
Amazonが商品の保管、注文処理から発送、配送や返品に関するカスタマーサービスを代行するフルフィルメント by Amazon(FBA)の存在も大きいといいます。
武藤さん「FBAがなければ、夫婦2人でここまでビジネスを拡大させることはできませんでした。今後もこうしたAmazonのサポートを受けながら、男性用のジュエリーなど新たな領域にもチャレンジしていきたいですね」
海底熟成ワインの感動を世の中に広めたい
株式会社コモンセンスの代表取締役・青樹英輔さんの場合、手がける事業そのものが異色だと言えます。国内では数社しか行っていない、海底熟成ワインの製造・販売です。
青樹さん「2010年、趣味のダイビングで沖縄を訪れた際、ダイビングの師匠である山城正巳さんに海底熟成させたワインを飲ませていただく機会がありました。それまで飲んだどのワインよりもおいしくて、衝撃を受けました。なんとかこの海底熟成ワインを事業化できないかと山城さんに相談し、承諾を得たのがビジネスの始まりです」
海底熟成させることで、ワインの味わいはどのように変化するのでしょうか?
青樹さん「海底熟成の特徴は、果実味がフレッシュな状態のまま熟成させられることです。味わいに丸みを帯びた柔らかさが生まれ、ふくよかな甘みが引き出されます。大学の研究機関やソムリエの協力を得ながら、味わいの変化に関する実験も重ねました。ワインを沈めている南伊豆町の水温が海底熟成に適していること、そこで最も好ましい変化を遂げたのが南アフリカ産のシラーという品種であったこと。すべて科学的な数値は出していますが、公表はしていません。人によって好みもありますし、人の味覚を超える基準はないと思っているからです」
2013年からSUBRINA(サブリナ)というブランド名で発売を開始するも、「半年間、南伊豆の海底で熟成させた南アフリカのワインという物珍しさからメディアに取り上げられましたが、まったく売上に結びつかなかった」と青樹さんは振り返ります。転機となったのは、2016年から始めたAmazonでの販売です。
青樹さん「ワインは保管方法に注意を払わなければいけないため、自社サイト以外での販売をためらっていたのですが、2015年にAmazonで定温倉庫サービスが始まり、これなら安心して預けられると販売を決意しました。Amazonで販売した途端に年間売上が5倍になり、何が起きたのかとびっくりしました(笑)」
なぜ、Amazonで一気に売上が拡大したのか。そこにあるのは、匠の技と同じく、商品力×Amazonのサポートです。
青樹さん「Amazonのカスタマーレビューを通して、SUBRINAをギフト用に購入される方が多いことに気づきました。ワインは奥深い世界なので好みも多様化しており、ギフトとして選ぶ基準がすごく難しいんです。その点、SUBRINAには海底熟成というストーリーや付加価値があります。もちろん、味にも自信はありますが、味以外で伝えられる特別感がある。そのことが、ギフトとして贈りやすく、もらった側も特別な想いを感じられるというニーズに合致したのです」
ギフト需要の商品特性とAmazonの強みがマッチ
一方、Amazonのサポートもギフト購入を後押ししました。
青樹さん「クリスマスや結婚記念日、送別会や誕生日パーティーなど、お客様はイベントの直前になってギフトを購入されるケースがとても多いんです。そして、直前に購入してイベントまでに確実に届くのは、配送スピードが速いAmazonしかない。この意識が浸透しているからこそ、大半のお客様がAmazonでSUBRINAを購入されます。自社サイト経由ですと到着までに2〜3日かかってしまいますし、配送の途中で割れるなどのトラブルもたくさん経験しました。大切なイベントまでに商品が届かないことは、築いてきた信頼が一瞬にして失墜することを意味します。その点、FBAは配送スピードも速いですし、確実に商品を届けてくれる。信頼の向上にもつながっているんです」
ギフト需要を見据え、ギフトボックスやラッピングにも力を注いでいます。
青樹さん「SUBRINAを購入された方、ギフトとして受け取られた方に喜んでいただけるように、ラッピングに工夫を凝らしています。2021年8月から展開しているSUBRINA QUOTES(サブリナ クオーツ)では、感謝や愛、あるいは『ごめんね』といった気持ちを表す5種類のラッピングを作りました。言葉にするのは恥ずかしい、言いづらいという想いを、ラッピングを通して伝えられる仕掛けです。現在では、ご注文の半数をQUOTESが占めるほど好評を博しています」
Amazonの担当者のサポートも手厚いと青樹さんは言います。
青樹さん「オンラインセミナーやAmazon出品大学を利用していますが、Amazonの担当者はその中から私たちに合ったものをピックアップして知らせてくれます。それくらい私たちのことを真剣に、親身になって考えてくれていますし、1日に何回も連絡をくれて、色々な提案やアドバイスをくれるんです。正直、Amazonは大きな会社なので機械的な対応をされるのだと想像していたのですが、実際に接してみると本当に温かい会社で、今では共に進化していけるパートナーだと思っています」
匠の技の武藤さんに、ジュエリー販売という新たなビジネスを生むターニングポイントをもたらし、コモンセンスの青樹さんに対し、丁寧な提案やアドバイスによってビジネスの加速をサポートしたAmazon。今回の2社の事例からは、中小企業のDXを推し進めるにあたって、Amazonが重要なパートナーになり得ることが窺えます。次回は、中小企業を直接サポートするAmazonの社員の視点から、中小企業によるDXの具体例を見てみましょう。
~デジタルが切り拓く中小企業の未来~
Vol.1 彼女たちはいかにして道を切り拓いたか?(前編)
Vol.1 彼女たちはいかにして道を切り拓いたか?(後編)
Vol.2 なぜ、彼らは海外進出で成功を収めたのか?
Vol.3 コロナ禍で成功を収める中小企業の共通点とは?
Vol.4 常識を覆すヘルスケア製品はなぜ生まれたのか?
Vol.5 事業を受け継いだ彼らが 変革を成し遂げるまで
Vol.6 ヒット商品はいかにして生まれるか?
Vol.7 SDGsを背景にしたリユース市場の最前線
Vol.8 進化するEC市場、新たなDXで成功を掴む
Vol.9 地方自治体×Amazon。新たな地域活性化の形とは?
Vol.10 DXは老舗企業のビジネスをどう変えるか?
Vol.11 DXが生み出す地方創生の新しい形
Vol.12 なぜ、彼らのECビジネスは短期間で急成長したのか?
Vol.13 ECビジネスを加速させるブランディング戦略の新発想
Vol.14 中小企業のDXを加速させるAmazonのサポートとは?
Vol.15 中小企業のDXを支えるAmazon社員の想い
Vol.16 コロナ禍を乗り越えた飲食業のDX最前線
Vol.17 日本の中小企業が世界に羽ばたくために