日本の企業の約9割を占める中小企業(小規模事業者含む)は、日本経済にとって非常に大きな存在です。そして、その多くがDX(デジタルトランスフォーメーション)を推し進め、ビジネスに変革をもたらす活動を行うと共に、中小企業の数だけ挑戦のドラマが生まれています。デジタルが切り拓く中小企業の未来とAmazonのサポートを紹介する連載企画の第1回は、国際女性デーに合わせ、女性が活躍する企業の未来にフォーカスします。
※本記事は、2021年3月29日に日本経済新聞および日本経済新聞電子版に掲載された記事を加筆したものです。
日本の伝統文化への想いが彼女たちの原動力に
2016年、働く女性が能力と個性を最大限発揮できる社会を目指し、女性活躍推進法が施行されました。5年の月日が流れた今、ダイバーシティや人権意識の高まりをはじめとするグローバルな価値転換の影響もあり、女性の社会進出は進んでいます。実際、2019年には女性の就業率が過去最高の70.9%に達し、女性起業家や管理職の数も増えつつあります※1。一方で、世界経済フォーラムが発表した「ジェンダー・ギャップ指数2020」において、日本は153か国中121位。経済の分野では昨年の117位から2つランクをあげたものの、女性の社会進出の障壁が取り除かれたとは言えない状況です。それゆえ、自らの手で道を切り拓いてきた女性たちには、それぞれのドラマがあります。
※1 内閣府「男女共同参画白書令和2年版における15~64歳の女性の就業率」
とりわけ、昔は女性が酒蔵に入ることを禁じられていた日本酒づくりにおいてはなおさらです。兵庫県丹波市にある「西山酒造場」の西山桃子さんにとって、約170年の歴史を持つ蔵の女将になることは容易な決断ではありませんでした。
西山さん「夫の実家である西山酒造場に嫁いだのは2004年のことです。当時は看護師として働いていましたが、信頼のおける番頭さんが体調を崩されたことを機に女将の道へ進みました。とはいえ、当時は日本酒の知識も乏しく、子育てとの両立もあり、さらには国内の清酒消費量は下降の一途をたどる一方で……。正直、苦労の連続でした。そんなとき、義父から『業界の慣習にとらわれず、感じるままに新しい風を吹かせてほしい』と言われ、その言葉を糧に踏ん張ることができました。蔵の歴史や日本酒文化を途絶えさせてなるものかと、ある種の使命感を持って新しいことに取り組んできました」
脈々と受け継がれてきた文化を守るという意志は、盆栽の販売を手がける「妙興」の高村雅子さんの胸の内と深く共鳴します。盆栽の世界もまた、愛好家や後継者が年々減少するという課題に直面していました。
高村さん「幼いころから草花が好きだった私は盆栽の世界に魅了され、大阪で盆栽の教室を開いたことから香川県高松市とつながりを持ちました。高松は江戸時代から続く日本有数の盆栽産地ですが、十数年前は盆栽園や生産者が廃業の危機に瀕していました。なんとかそれを食い止め、盆栽文化を広めたいという想いから、2008年に社長と共に妙興を立ち上げ、WEBサイト『盆栽妙』(ぼんさいみょう)をオープンしました。盆栽を一人でも多くの人に楽しんでいただくために、販売はもちろん、手入れや育て方のレクチャーも行っています。これまでに、盆栽妙を通じて5万人以上の方が盆栽を始めました」
女性のキャリア形成と女性ならではの視点
妙興を立ち上げる以前、高村さんは出産を機に勤めていた会社を辞めた過去があり、「本当はもっと続けたかった」と当時を振り返ります。産休や育児休業は制度として定められているものの、出産や子育てが女性のキャリア形成に与える影響は甚大です。ジュエリーの制作・販売を手がける「naotjewelry」(ナオトジュエリー)の高原菜穂子さんも、出産を機にキャリアを見つめ直し、新たな道を切り拓きました。
高原さん「以前は建築・不動産関連の会社に勤めており、産休後に職場復帰しました。ただ、2人目を出産して育児の時間も増え、このままだと会社に迷惑をかけてしまうかもしれないと思い、退職を決めました。でも、ものづくりへの想いだけはどうしても捨てきれませんでした。子育てと両立しながら自宅でできて、かつビジネスとして成立するものを模索した結果、行き着いたのがジュエリー制作です。ジュエリーには身につける人の気持ちを高め、表情を明るくする力があります。働く女性はもちろん、子育てをする女性、家事をする女性など、すべての女性をその人らしく輝かせる応援をしたいと、数年前にジュエリーブランドを立ち上げました」
北海道札幌市にある工房では、4人の女性従業員との会話をきっかけに商品が生まれることも多いといいます。
高原さん「『最近、肌の調子が良くない』『体型が気になり始めた』。そんな何気ない会話から『肌や体型を美しく見せるジュエリーを作ってみよう』とアイデアが生まれます。女性のためのブランドだからこそ、女性ならではの視点を大切にしています」
盆栽を販売する高村さんもまた、暮らしの中に盆栽を浸透させたいという想いを実現するために、女性の視点が必要だと言います。
高村さん「12名の従業員はすべて女性です。年配の男性の趣味という盆栽のイメージを変え、より多くの人たちに楽しんでもらうためには、女性ならではの細やかな感性はもちろん、女性だけで運営している盆栽ショップというブランディングが不可欠でした。当社では朝礼時に一人ずつ、最近あった出来事を話す時間を設けています。多様な価値観を知ることでコミュニケーションが円滑になりますし、思いがけないビジネスのヒントも生まれます。ある従業員が親戚の結婚式に出席して、引き出物のカタログギフトを見たことをきっかけに盆栽のカタログギフトが生まれたこともあります」
男性中心だった酒蔵においても、今では女性が活躍しています。西山酒造場は50人の従業員のうち、女性が3分の2を占めています。それは、西山さんが女将になった当時からすると大きな変化だと言います。
西山さん「女性の視点を大切にすることを方針に掲げ、甘酒ヨーグルトや化粧品の販売など、新しい分野にもチャレンジしています。女性を採用し始めた10年前は、重い荷物を運ぶための滑車を導入したこともありました。でも、今や女性がいることは当たり前となり、外国人の従業員もいます。性別や国籍の垣根はなく、皆が多様な価値観を受け入れ、助け合いながら働いています」
一方で、女性のキャリア形成には最大限のサポートを惜しみません。それは、自身のキャリアを振り返ったときに生まれた想いに由来します。
西山さん「自分にとって働くことは自己実現のひとつです。けれど、出産や子育てを機に、その機会を奪われることがあります。それを経験して今の自分があるからこそ、女性従業員には同じ想いをしてほしくないと思っています。そのために、女性従業員一人ひとりと話し合い、10年後に向けてどうキャリアを形成するかを一緒に考えています」
高村さん「私も同じような経験をしているので、会社を立ち上げたとき、働く女性を助けたいという想いがありました。オフィスには託児所をつくり、仕事と子育てを両立できる環境づくりに取り組んでいます」
高原さん「子育ての大変さを知っているからこそ、8割以上は在宅で業務ができる環境を整えています。ジュエリー販売を始めて10年近く経ちますが、ようやく『子育てをしながら自分の好きなことを仕事にする』という当初のヴィジョンが形になり始めています」
~デジタルが切り拓く中小企業の未来~
Vol.1 彼女たちはいかにして道を切り拓いたか?(前編)
Vol.1 彼女たちはいかにして道を切り拓いたか?(後編)
Vol.2 なぜ、彼らは海外進出で成功を収めたのか?
Vol.3 コロナ禍で成功を収める中小企業の共通点とは?
Vol.4 常識を覆すヘルスケア製品はなぜ生まれたのか?
Vol.5 事業を受け継いだ彼らが 変革を成し遂げるまで
Vol.6 ヒット商品はいかにして生まれるか?
Vol.7 SDGsを背景にしたリユース市場の最前線
Vol.8 進化するEC市場、新たなDXで成功を掴む
Vol.9 地方自治体×Amazon。新たな地域活性化の形とは?
Vol.10 DXは老舗企業のビジネスをどう変えるか?
Vol.11 DXが生み出す地方創生の新しい形
Vol.12 なぜ、彼らのECビジネスは短期間で急成長したのか?
Vol.13 ECビジネスを加速させるブランディング戦略の新発想
Vol.14 中小企業のDXを加速させるAmazonのサポートとは?
Vol.15 中小企業のDXを支えるAmazon社員の想い
Vol.16 コロナ禍を乗り越えた飲食業のDX最前線
Vol.17 日本の中小企業が世界に羽ばたくために