社会全体がDX(デジタルトランスフォーメーション)に舵を切る中で、Amazonは日本の企業の約9割を占める中小企業(小規模事業者含む)を支援し、さまざまなサービスやプログラムを通して中小企業のDXを後押ししています。デジタルがもたらす中小企業の変革とは? そして、変革を加速させるAmazonのサポートとは? 連載企画の第25回は、SDGsに取り組む中小企業のDXを紹介します。
※本記事は、2022年10月27日に日本経済新聞および日本経済新聞電子版に掲載された記事を加筆したものです。
2015年の国連総会で、持続可能な開発目標を定めたSDGsが採択されて以降、その影響は全世界に波及しています。2030年の達成を目指す17のゴールには、気候変動対策をはじめ、貧困や飢餓の撲滅、健康や福祉、教育の促進などが掲げられており、政府や行政機関、企業や民間団体などがそれらを推し進めています。
全国の中小企業者等を対象に行われた2022年のアンケート※では、SDGsについて「現在すでに取り組んでいる」「現在は取り組んでいないが、今後取り組んでいく予定」との回答が30.6%に達するなど、中小企業においてもSDGsの取り組みが進んでいます。
そこで今回は、SDGsの取り組みのモデルケースとなり得る中小企業2社を紹介すると共に、Amazonでの販売というDXがSDGsにどのような影響をもたらしているかを掘り下げます。
※ 独立行政法人 中小企業基盤整備機構「中小企業のSDGs推進に関する実態調査」
100%再生紙利用の商品で森林保護に貢献
岐阜県美濃市にある牧製紙株式会社は、SDGsが社会的関心を集める以前から、100%再生紙を使ったトイレットペーパーやちり紙の製造・卸販売を行ってきました。その経緯を、代表取締役の太田俊樹さんはこう語ります。
太田さん「1962年の創業当初から、一貫して再生紙を使っています。木材パルプを使用せず、古紙から異物や不純物を取り除き、再利用するという製法です。30年以上前に作った社訓に『常に資源を大切に心掛ける』と定め、意識的に環境問題に取り組んできました」
古紙を再利用することは森林資源の保護につながり、SDGsのゴールである「陸の豊かさも守ろう」などに貢献しています。
太田さん「再生紙を使うことで森林を守りたいという考えを多くの人に知ってもらうために、20年ほど前から『森を守ろう!』という商品名のトイレットペーパーを販売しています。木材パルプの商品と差別化したいという狙いもありました。Amazonでは10年ほど前から『岐阜のトイレットペーパー工場』というストア名で販売を始めましたが、森を守るという考えに共感してくださるお客様も多いですね」
良質な水に恵まれた美濃市は、重要無形文化財にも指定されている美濃和紙の産地として知られ、牧製紙も前身時代は手漉きの障子紙などを製造していました。時代の流れと共に機械抄(す)きへ移行し、商品もちり紙やトイレットペーパーに変化したといいます。
太田さん「長年培ってきた技術力に加え、JIS規格の紙の厚さを守り、品質や使いやすさにこだわってきました。一方、近年は価格競争などがあり、卸販売は不振に陥っていました。そうした中、新たな販路としてEC(電子商取引)を模索した結果、知名度に魅力を感じてAmazonでの販売を始めたのです」
Amazonのカスタマーレビューが販売の支えに
Amazonの販売では、「まず、集客力の高さに驚きました。売上も安定していて、今では当社の売上の3分の1を占めています」と語る太田さん。次に驚いたのが、カスタマーレビューだったといいます。
太田さん「Amazonで販売を始めるまで、お客様の声を直接聞く機会はありませんでした。カスタマーレビューで、『森を守ろう』という考えに共感した、トイレに流したときに詰まりにくいという言葉をいただくなど、本当に励みになっています。お客様のニーズを知ることもできるので、梱包の個数を変えるなどの商品改良にも役立っています」
日本中に商品を届けることで、美濃和紙の存在を知ってもらえることも喜びだといいます。
太田さん「毎年開催される美濃市の産業祭には県外から訪れるお客様も多いので、Amazonで商品を販売していることを宣伝しています。Amazonを通じて当社の商品を購入していただき、美濃和紙の認知度を高め、それによって地域の雇用創出を後押しできればと思っています」
Amazonでの販売は「想像を超える効果があった」と続けます。
太田さん「手漉き和紙を製造していた前身時代から数えると、私は5代目にあたります。長い歴史の中で、Amazonを通じて日本の広い範囲のお客様に商品を届けられることになったのは大きな転機でした。これからも心のこもった紙で社会に奉仕するという想いを胸に、お客様に喜ばれる商品を造り続けたいですね」
SDGs×ジビエでフードロスに対応
SDGsに掲げられた「飢餓をゼロに」「つくる責任 つかう責任」といったゴールを達成するために必要な、「フードロス」(食品の廃棄)の削減が注目を集めています。大阪府大阪市にある淡路アグリファーム株式会社は、ジビエを起点としたフードロス削減に取り組んでいるユニークな中小企業です。
「当社のルーツである兵庫県淡路島では、鹿や猪による農業被害を減らすため、昔から捕獲活動を行っています」と語るのは、同社代表取締役の冨田美恵さんです。
冨田さん「祖父母の代から淡路島で農業に携わり、父母の代に大阪市で淡路島の野菜やジビエを使った飲食店を開業し、私が継ぎました。生態系を維持しながら鹿や猪を捕獲することは森林や里山の保護につながり、ジビエを無駄なく活用することで食糧確保にもなります。ジビエを通じた循環は、SDGsと親和性が高いと思います」
飲食店を切り盛りする中、2020年に新型コロナウイルス感染症がまん延し、休業を余儀なくされます。
冨田さん「休業したとはいえ、淡路島では野菜が育ち、鹿や猪が捕獲されていきます。それらを提供する場所を失い、野菜もジビエも廃棄するしかないのかと、しばらく途方に暮れました」
そんな中、一筋の光明となったのがドッグフードの製造です。
冨田さん「もともと、ジビエをホテルやレストランに卸す際、成形時に生じる端肉を用いた犬用のジャーキーを製造し、2017年からAmazon出品サービスを活用し、『MOUNTAIN’S GIFT』というストア名でAmazonで販売していました。飲食店の再開のめどが立たない中、食材の廃棄を避けるため、ドッグフードの製造・販売に本腰を入れようと決心しました」
新鮮な野菜とジビエを使った同社のドッグフードは栄養価が高く、栄養バランスも優れ、完全無添加であることが特長です。
冨田さん「ただ、ECに関する知識が乏しく、売上の主軸に据えるほど売上を大幅に伸ばす方法がわかりませんでした」
リテール部門での販売が飛躍のきっかけに
2020年のある日、大きな転機が訪れます。
冨田さん「Amazonから『商品を仕入れさせていただけませんか』という連絡があったのです」
Amazonには、Amazonが直接商品を仕入れ、Amazonが販売元となって商品を販売するリテール部門があり、販促をはじめ、商品の仕入れから保管、出荷、配送までをAmazonが販売者として行い、製造業者様や卸売業者様のビジネスの拡大に貢献しています。
冨田さん「Amazonのリテール部門に商品を卸してからは驚きの連続でした。売上が伸び、Amazon内のさまざまなランキングでも上位に入り、4か月で約6万食が売れました」
商品ラインアップの拡充を図るなど、数か月で販売が加速しました。
冨田さん「販売面はAmazonにお任せできるので、私たちは商品の製造に集中できます。Amazonのサポートがなければ、大阪の飲食店や淡路島にいる従業員の雇用を守ることはできなかったと思います。無駄なく食材を使うことで、フードロス削減に貢献できていることも喜びにつながっています」
Amazonのリテール部門への卸売と並行して、Amazon出品サービスを活用した販売も続けています。
冨田さん「Amazon出品サービスでの販売では、Amazonが商品の保管、注文処理、梱包、配送、さらには注文や商品に関するカスタマーサービスを代行してくれるフルフィルメント by Amazon(FBA)を利用しています。淡路島で働く従業員は高齢者が多いので、注文処理などのパソコン操作はハードルが高いのですが、FBAのおかげでスムーズかつ簡単に出荷作業を行うことができています」
冨田さん「徐々にですがAmazonでの販売方法に関する知識もつき、ようやくスタート地点に立ったのだと実感しています。『山も畑も、人の手を止めたら育たなくなる』という祖父の教えを守り、農業も、人と動物が共生できる環境づくりも継続していければと思っています」
100%再生紙を使った商品で森林保護に貢献する牧製紙と、森林や里山を守り、ジビエを使ったドッグフードでフードロスにも対応する淡路アグリファーム。SDGsを後押しする両社の商品は、Amazonでの販売というDXを推進することで日本中へ届き、さらには地域活性化や雇用創出といった好循環を生み出しています。SDGsとDXを掛け合わせる視点が、持続可能な社会を実現するために有効だと言えるでしょう。
中小企業を進化させるAmazonのDXサポートシリーズ
Vol.1 商品のリピーターを生み出す、DXにおける新たな方程式とは?
Vol.2 ECビジネスを加速させるギフト戦略の最前線
Vol.3 ECビジネスに不可欠なフルフィルメント戦略
Vol.4 既存商流のデジタル化はなにをもたらすか?
Vol.5 女性を支える商品は、社会と暮らしをどう変えるか?
Vol.6 DXと共に変化する、新生活アイテムの消費行動とは?
Vol.7 DXはエシカル消費をどのように後押しするか?
Vol.8 AWSクラウドがもたらした、農業を支えるDXの進化
Vol.9 AWSが加速させる、社会に貢献する事業のDX
Vol.10 スタートアップの革新はいかにして生まれるか?
Vol.11 AWSによるDXは、第一次産業をどう進化させるか?
Vol.12 事業承継のために老舗が挑んだ改革と守った精神
Vol.13 豊かな人生に貢献する商品を生み出した開拓者たち
Vol.14 業務効率化で生まれた時間をどう活用するか?
Vol.15 ブランドの保護・活用による中小企業の成長戦略
Vol.16 企業の情報資産を守り、ビジネスを止めないために
Vol.17 日本の健康を食で支えるために開拓したECという販路
Vol.18 社会課題にイノベーションを起こすITベンチャーの技術力
Vol.19 エッセンシャルワーカーにDXはどんな価値をもたらすか?
Vol.20 和の名産を手がける老舗が踏み出したDXの新たな一歩
Vol.21 デジタル面にとどまらない、Amazonの中小企業支援とは?
Vol.22 行動や価値観の変化を捉える、中小企業の商品開発の今
Vol.23 メイド・イン・ジャパンの品質を世界中に届けるために
Vol.24 地域活性化を後押しする、特産品の魅力とDX
Vol.25 中小企業が取り組むSDGsとDXの相乗効果