社会全体がDX(デジタルトランスフォーメーション)に舵を切る中で、Amazonは日本の企業の約9割を占める中小企業(小規模事業者含む)を支援し、さまざまなサービスやプログラムを通して中小企業のDXを後押ししています。デジタルがもたらす中小企業の変革とは? そして、変革を加速させるAmazonのサポートとは? 連載企画の第22回は、社会の変化に対応した商品を生み出す中小企業を紹介します。
※本記事は、2022年10月6日に日本経済新聞および日本経済新聞電子版に掲載された記事を加筆したものです。

社会の変化と共に、人々の行動や価値観は目まぐるしく変化しています。たとえば、過去30年間で普及したパソコンやスマートフォン、インターネット、SNS、EC(電子商取引)などは、私たちのライフスタイルを大きく変えました。さらに、新型コロナウイルス感染症なども大きな影響を与えています。

では、中小企業はそうした価値観や消費者の行動の変化をどのように捉えているのでしょうか? 今回は、Amazonのサービスを活用する中小企業2社の事例から、時代の変化に対応した商品開発と販売方法の変化にフォーカスします。

ブームの中で気付いた日本人の本当のニーズ

コロナ禍の影響もあり、心身を整えるフィットネスとして、ヨガが人気を集めています。ヨガが現在のように普及したのは、ここ20年ほどのことです。

「2000年代初頭、海外の著名人やハリウッドスターがこぞってヨガを始めたことから、日本でも一気にヨガブームが起こりました」と語るのは、株式会社インターテック代表取締役社長の石谷昇太さんです。

海外商品の輸入販売・卸販売を手がける同社は、当時のヨガブームの到来と共にヨガウェアの輸入販売を開始。大きな反響を得る一方、ある問題に直面したといいます。

取扱製品を背景に、笑顔の石谷さん
株式会社インターテック 代表取締役社長・石谷昇太さん

石谷さん「海外と日本の女性では体型が大きく異なるため、ウェアのサイズやデザインがフィットしないことが多かったんです。それなら自分たちで商品を開発しようと、2004年にsuria(スリア)というブランドを立ち上げました」

ブランドのコンセプトは、日本の女性に寄り添った商品づくりを大切にすること。それは立ち上げ当初から一貫しています。

石谷さん「女性が気になるお腹周りを隠せるシルエットのタンクトップや、冷え性対策にもなるカーディガンやヨガソックスなどがお客様からご支持をいただいています。近年は、アスレチックとレジャーを組み合わせた『アスレジャー』というファッションスタイルが浸透しており、休日に普段着として着られるデザイン性にこだわった新作ウェアをシーズンごとに制作し、商品ラインアップを拡充しています」

中でも、滑り止め加工などを施したヨガソックスを他社に先駆けて販売したことで、ヨガブランドとして注目を集めていきます。

白いタンクトップと黒とベージュのレギンス
ロングセラー商品であるタンクトップ(右)とレギンス(左)
フットカバースタイルのものや指なしスタイルのものなど形もさまざまなヨガソックス
ヨガソックスはさまざまな素材やデザインのものを取りそろえている

実店舗とECを横断的に活用し、商品を広めたい

2004年から自社ECをスタートし、Amazonでの本格的な販売は2021年から開始しました。

石谷さん「コロナ禍でヨガ人気が高まる一方、自宅でヨガを行う際にヨガウェアに着替える方は少なく、売上が落ち込みました。そうした中、自宅でのストレッチにも使えるヨガマットの売上がAmazonで伸びたことが大きな救いとなりました。最近は、感染症対策の観点からヨガスタジオに自分のヨガマットを持参するお客様も増えており、安心してヨガを楽しんでいただけるよう、ヨガマット用の除菌・消臭クリーナーの開発を強化しました」

商品が並ぶ棚の奥にカラフルな色展開のヨガマットが立てかけられている。
豊富なカラーバリエーションで展開しているヨガマット(奥)はコロナ禍で需要が拡大
白とインディゴ色の丸くて厚めの座布、ピンク・紫・グリーンのヨガブロック、赤と黄色のヨガマット
ヨガマットのほかにストレッチやピラティスなどに使うブロックや座布団も販売

石谷さんは、Amazonでもsuriaのブランドイメージを打ち出せたことが成功の要因だと分析します。

石谷さん「Amazonでの販売開始当初、他社の商品と差別化できるかという懸念がありました。ですが、Amazonのストアページにsuriaのコンセプトや品質へのこだわりを載せることで、ブランドイメージを伝えることができました。そのうえで、Amazonの圧倒的な集客力や配送の迅速さなどがお客様の購入を後押ししてくれています。Amazonが商品の保管、注文処理、梱包、配送、注文や商品に関するカスタマーサービスを代行してくれるフルフィルメントby Amazon(FBA) もメリットが大きいですね」

商品をテーブルに並べてミーティングをする様子
定期的に社員向けのヨガレッスンを行い、ヨガウェアの使用感を確認し、商品開発に役立てている

自社ECにはAmazonの決済サービス、Amazon Payを導入。すでにAmazonアカウントをお持ちのお客様の、クレジットカード情報などを入力する手間を省いて利便性を高めるなど、Amazonのサービスを活用してECでの販売を強化しています。

石谷さん「スポーツ用品店などへの卸販売のほかに、新たな販路として、ヨガスタジオにもアプローチしています。そこで得たお客様の声やコーディネートのアイデアを、どのようにECに反映していくかが今後の課題です。実店舗とECの垣根を越えて、ヨガアイテムを多くのお客様にお届けしていきたいですね」

ニーズに対応した商品で、お客様に喜びを届けたい

「お客様のニーズを叶える商品を開発することで、生活を楽しく、豊かにするお役に立ちたい」。そう語るFun Standard(ファンスタンダード)株式会社代表取締役の大屋良介さんは、行動や価値観の変化を捉えた商品開発を徹底するブランド、PYKES PEAK(パイクスピーク)を展開し、Amazonで販売しています。

製品やデスクで仕事中の社員達を背景に笑顔の大屋さん
Fun Standard株式会社 代表取締役・大屋良介さん

大屋さん「お客様がどんなジャンルの商品を、どんな機能を、どれくらいの価格帯でお求めになっているか。Amazonにおける自社商品や他社商品のカスタマーレビューやSNSなどをくまなくチェックし、アンケートを実施し、可能な限りお客様のニーズを調べて商品開発のヒントを探しています」

とりわけ、行動や価値観が大きく変化したコロナ禍以降は、商品開発に拍車がかかっています。

大屋さん「たとえば、ソーシャルディスタンスを保ちながらプレーできるスポーツとしてゴルフが注目を集めたことから、手頃な価格で耐久性に優れたキャディバッグを開発しました。アウトドア用品、フィットネス器具、テレワーク用のデスクなど、ニーズの変化に合わせた商品をスピーディに開発しています」

スピード感やコストパフォーマンスを意識しながらも、最も重視しているのは商品の品質、「商品を手にしたお客様に喜んでいただけるか」という視点です。

大屋さん「ゴルフのキャディバッグは男女問わず利用できるよう、デザインのバリエーションに幅を持たせ、軽さやカラーにもこだわりました。そうしたこだわりをAmazonの商品ページでしっかりとアピールすることで、多くのお客様にご購入いただいています。事業を軌道に乗せる過程で、私たちのような地方の中小企業が大手メーカーと同じフィールドで勝負するためには、Amazonという販路はなくてはならない存在だったんです」

販売しているアウトドアグッズ
クーラーボックスやチェアなど、幅広い商品展開を行うアウトドアグッズ
部屋に置かれたぶら下がり健康器
コロナ禍で需要が伸びたぶら下がり健康器
3種類のキャディバッグ
手頃な価格で耐久性に優れたキャディバッグは女性でも持ち運びしやすい軽さ

Amazonは中小企業を勇気づける存在

2017年のブランド立ち上げと同時にAmazonでの販売を開始。それにはいくつかの理由があると大屋さんは言います。

大屋さん「ECでは、送料が商品を購入する際の1つの判断基準となります。私たちは福岡の会社なので、関東や関西の企業と比べると、どうしても首都圏への送料が割高になってしまいます。その点、FBAを利用すれば商品にプライムマークが付き、Amazonプライム会員のお客様の場合は基本的に送料が無料になるので、大手メーカーとも互角に渡り合えると思いました」

Amazonでの販売開始と同時にFBAを利用したことで、商品開発のスピードにも好影響が生まれたといいます。

大屋さん「5~6人という少人数で事業を始めた当社にとって、注文処理や梱包のための人員やスペースを確保する必要がないことは大きな魅力でした。その分、市場調査や商品開発に専念することができます。時代の変化に即した商品開発はスピードが重要ですが、Amazonのサービスがなければ現在のスピード感は実現できなかったと思います」

販売効果を高めるために、ほかにもさまざまなAmazonのサービスを活用しています。

大屋さん「Amazonの広告サービスは、スポンサープロダクト広告スポンサーディスプレイ広告スポンサーブランド動画広告など、使えるものはすべて使っています。それだけ広告の効果や反響が大きいためです。また、Amazon プライムデーなどのセールにも積極的に参加しています」

商品ページに用意されたテントの張り方を説明する動画
商品ページ用に動画を制作し、商品の使用方法などを解説
商品を並べてミーティング中の様子
商品開発ではお客様目線に立って商品の使用感を議論し、改良を重ねている

商品の機能性や価格設定がカスタマーレビューで高評価を集め、次第にAmazonでの認知度を高めていったPYKES PEAK。大屋さんは、「Amazonは地方発の中小企業のメーカーを勇気づける存在」でもあると言います。

大屋さん「ECがここまで浸透するひと昔前は、豊富な開発資金や宣伝費、販路を持つ大手メーカーに中小メーカーは太刀打ちできない時代でした。今は、商品力さえあればAmazonでブランドを確立し、地方の中小企業でも大手メーカーと対等に勝負ができる。この可能性がAmazonの最大の魅力だと思います。これからもお客様のニーズを叶える商品を開発し、いつかは日本中に名が知れ渡るブランドに成長したいですね」

目まぐるしく変化する価値観や消費者の行動変容を読み、ニーズを的確に捉えた新商品を生み出し続けるインターテックとFun Standard。両社はAmazonでの販売を通じてブランド力を高め、認知度を拡大しています。ブランド力と商品力という両輪を武器にECを推進するその姿勢は、中小企業メーカーのDX戦略の1つの方向性を示していると言えそうです。

中小企業を進化させるAmazonのDXサポートシリーズ
Vol.1 商品のリピーターを生み出す、DXにおける新たな方程式とは?
Vol.2 ECビジネスを加速させるギフト戦略の最前線
Vol.3 ECビジネスに不可欠なフルフィルメント戦略
Vol.4 既存商流のデジタル化はなにをもたらすか?
Vol.5 女性を支える商品は、社会と暮らしをどう変えるか?
Vol.6 DXと共に変化する、新生活アイテムの消費行動とは?
Vol.7 DXはエシカル消費をどのように後押しするか?
Vol.8 AWSクラウドがもたらした、農業を支えるDXの進化
Vol.9 AWSが加速させる、社会に貢献する事業のDX
Vol.10 スタートアップの革新はいかにして生まれるか?
Vol.11 AWSによるDXは、第一次産業をどう進化させるか?
Vol.12 事業承継のために老舗が挑んだ改革と守った精神
Vol.13 豊かな人生に貢献する商品を生み出した開拓者たち
Vol.14 業務効率化で生まれた時間をどう活用するか?
Vol.15 ブランドの保護・活用による中小企業の成長戦略
Vol.16 企業の情報資産を守り、ビジネスを止めないために
Vol.17 日本の健康を食で支えるために開拓したECという販路
Vol.18 社会課題にイノベーションを起こすITベンチャーの技術力
Vol.19 エッセンシャルワーカーにDXはどんな価値をもたらすか?
Vol.20 和の名産を手がける老舗が踏み出したDXの新たな一歩
Vol.21 デジタル面にとどまらない、Amazonの中小企業支援とは?
Vol.22 行動や価値観の変化を捉える、中小企業の商品開発の今
Vol.23 メイド・イン・ジャパンの品質を世界中に届けるために
Vol.24 地域活性化を後押しする、特産品の魅力とDX

2021年のこのシリーズでは、コロナ禍を乗り越えた飲食店や、OEMから自社ブランド製造に舵を切った企業、老舗の食品店や伝統工芸品店、農産物販売企業まで、Amazonで販路を広げDXを推し進める中小企業をご紹介しています。

 

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