「見た目よりも速い」
色焼けした革の作業用ブーツ以外は黒一色の服を着たヴァーナー・ボーガス(Werner Vogels)は博士であり、アマゾンウェブ サービス(AWS)最高技術責任者(CTO)。彼は、フィリピンのグアグアにある小さなバランガイ(村)の一つで、近隣に石積みの家が密集する狭い通りの角を曲がっているとき、その言葉を口にしました。路上から数段上にあるコンクリートの玄関に腰かけている2人の男性が、雄鶏に目に向けながら、ボーガス博士が通り過ぎるのを見つめています。
身長が2メートル近くあるボーガスは、その体の大きさのために威圧感があるように見えるかもしれません。しかし、彼が男性たちや雄鶏を通り越すときにも、そういった雰囲気を出すこともなく、多くの子どもたちが笑顔で彼の周りにいます。
そして、まるで魔法のように現れたストリートカートから、アイスクリームが子どもたちの小さな列に配られます。子どもたちが賑やかになってきたので、ボーガスは非営利団体であるHumanitarian OpenStreetMap Team (HOT)のメンバー2人と共にテーブルに座りました。彼がそこにいる理由は、地域社会の協力を得てクラウド上で算出するオープンソースのソフトウェア・プロジェクトが、どのように町全体をマッピング(地図作成)しているのかを学ぶためです。
グアグアは、マニラから北に数時間の場所に位置しています。住民はピナツボ山で約30年前に起きた大噴火の影響から様々な手段で現在も復興する作業が続いています。このマッピングプロジェクトにはHOTだけでなく、オープンソースのマッピングコミュニティーであるOpenStreetMap(OSM)も参加しています。この国際的な試みで実現する目標は、大噴火の影響で現在も、まるで文字通りにアイスクリームで覆われたような光景が広がる場所にいる、子どもたちと家族を世界中から見ることができるようにし、その結果、地球上で最も災害が発生しやすい地域の一つである安全の基準について提供をしていくことです。
ボーガスが案内人を務める、『Now Go Build』(YouTubeで公開)では、「見られること」をテーマとして、第2シーズンが現在公開されています。
ボーガスは次のように話しています。
「最初のエピソードではインドネシアのジャカルタを拠点とする、スタートアップ企業のHaraを取り上げました。Haraはインドネシアと東南アジアの数百万人の小規模農家に対して、作物に関するデータを提供することと引き換えに、フェアクレジット(公正信用)や様々なNGO(非政府組織)プログラムへのアクセスを提供する基盤を築きました」「Haraが築いたブロックチェーン対応の基盤も見事ですが、より驚いたことは、ついに小規模農家数を数えることができるようになり、これまで全く手が届かなかった金融システムのなかに、アイデンティティ(身元)や住所を入力できるようになったのです」
ボーガスは「分散処理システム」で世界的な専門家の一人です。彼は、Amazonが稼働するインフラストラクチャーの構築に大きな役割を果たし、そこからAWSは誕生しました。ボーガスは、常に驚きや感動を与えてくれるのは、AWSという世界規模の同一システムが、現在ではあらゆる場所で目的を持った人々に活用されていることだと話しています。
ボーガスは、「AWSは可能なことを増やします」と言います。そして「ヘルスケア、教育、きれいな水、エネルギー、輸送、農業、そして再び噴火する可能性がある火山の近くで生活すること。私は、小さなチームが自分たちの地域や環境に与える発想力と影響力に、いつも驚かされます。彼らがどれだけ私たちの生活や仕事に変化をもたらしているかを実感しています」とも話しています。
テーブルに戻ってHOTのチームと会話を始め、ボーガスはすぐに彼らとOpenStreetMapが、どのようにして、地球上のほぼどこでもスマートフォンを持ってさえいれば使えるマッピングツールを構築したのか、コードレベルの詳細な議論へ積極的に参加していきます。
世界の仮想化が加速
『Now Go Build』の第1シーズンでは、ボーガスが東南アジアからヨーロッパ、アフリカに渡り、地球上で最も困難で、差し迫った問題に取り組む人々と出会う様子を追いました。増え続ける世界の人口に食料供給をすることから、よりスマートな交通機関や都市、野生動物の保護、難民が新たな地で生活や生計を立てるための支援に至るまで、その内容は多岐にわたります。なかにはエレクトロニック・ミュージック(電子音楽)の楽しさもあります。ボーガスはアムステルダム(オランダ)人として誇りを持っています。
第2シーズンでは日本、インド、フィリピン、ポーランドを訪ねます。インドでは、夫と妻のチームが何千年の歴史を持つアートをどのように保存しているのか、そして同時に女性アーティストのためにどうやってビジネスを構築しているのかについて調査しています。フィリピンでは、目に見えないものが目に見えるようになったとき、また人々が文字通りに地図の上へ置かれたとき、いったい何が起こるのかに注目しています。
日本では高齢化社会に焦点を当てています。株式会社Z-Works共同経営者の髙橋達也さん、 Pixie Dust Technologies CEOの落合陽一さん、MICIN株式会社のCEO原聖吾さんたちと、人々がどのようにして、より多くのつながり、尊厳を保ち、スマートなシステムの支援を受けながら、お互いをより良くケアすることができるかを考えます(日本編は日本語字幕付)。
最後に、私たちのほぼ大半が以前よりバーチャル化しつつある世界のなかで、ポーランドのエピソードでは、私たちが集団として経験していることが、どのようにして子どもたちに対する良い教育になっていくのかを考えています。またテクノロジーが誰にとっても、教育へのアクセスをより公平にしてくれる方法についても考察しています。最終のエピソードではパンデミックで新たなアプローチを余儀なくされるなか、その過程でいくつかの新しい真実を明らかにします。
経験、失敗、そして成功のすべてに対して挑戦すること
インドの都市バンガロールを拠点とするスタートアップ企業Zwendeと、『Now Go Build』のインドのエピソードを撮影後、ボーガスは屋上のテラスでチームと談笑し、そして古代のアートにも挑戦しています。完璧なテーブルを探していたことがスタートアップ企業へのアイデアとなった、Zwendeの共同設立者の1人であるInnu Nevatiaさんは、ボーガスとAmazonのチームが初期の頃に後悔したことを知りたいと言っています。ボーガスは当時のことを忘れていません。
「それは私たちが挑戦をしなかったことです。私たちにアイデアはありましたが、それを置きざりにしていました。経験、失敗、成功して、何でも挑戦してみてください。それがどのくらいの規模になるのか、やらなれければ、どんな影響があるのか知ることはありません」
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