Amazonは、提供するサービスや製品、テクノロジーを通じて、アクセシビリティ※1に対する取り組みに力を入れています。中でも、音声アシスタントのAmazon Alexa(アマゾン アレクサ)が搭載されたスマートディプレイ、Amazon Echo Show(アマゾン エコー ショー)は、簡単なセットアップで導入しやすく、話しかけたり、画面へのタッチで操作ができたりするデバイスとして、いま難病患者の方々や生活介助をするご家族や介助者に活用いただいています。
※1近づきやすさ、使いやすさ

新潟県長岡市にある、新潟県長岡地域振興局健康福祉環境部(以下、新潟県長岡保健所)では、ICT(Information and Communication Technologyの略称、情報通信技術)を利用したALS(筋萎縮性側索硬化症)患者の皆さんへの支援の一環として、Echo Showの導入を進めています。AlexaやEcho Showが難病を抱える人々の生活の中で、どのように活用され、どのような役割を果たしているのか、実際にEcho Showを導入する当事者の方々や、ALS治療の専門家にお話を伺いました。

保健所がALS患者さんへの早期ICT支援にAlexa、Echo Showを導入した理由

ALSは、顔面、咽頭、呼吸筋を含む、全身の四肢の筋萎縮が進行する疾患で、日本では6,000から7,000名の患者さんがいると推定されています※2
※2 一般社団法人 日本ALS協会ホームページより

長岡市在住の北村弘さんは、2017年にALSを発症。以来、ご家族の介助と、医療施設や保健所の支援を受けながら、自宅で生活をしています。歩行は自宅内での移動は可能ですが、外での移動となると車椅子が必要で、両手は動かすことができません。

両手が使えないために、一時的にスマートフォンやパソコンといった機器が使えない状態が続きましたが、現在は、新潟県長岡保健所と国立病院機構新潟病院の支援により、パソコンなどの操作を1つのキーだけで行える「ワンキーマウス」という専門機器を使い、タブレット端末の操作をすることができています。

机の下に置かれた円形の柔らかそうな器具。それを足先で押している
弘さんがタブレット利用時に足で操作する「ワンキーマウス」

ALSでは、適切な栄養療法、呼吸ケア、多職種によるケア、意思伝達サポートなどが、患者さんの生活の質(QOL)に大きくかかわります。とりわけ意思伝達サポートは、重度肢体不自由、発声困難を症状として持つALS患者さんにとって、主体的な生活を送る上で、必須の支援となってきます。

ワンキーマウスや、視線だけでパソコンやスマートフォンを操作する入力装置といった、体に障がいがあっても使える伝達装置が必要とされるのも、そうした理由からです。しかし、専門機器を用いたICT※3支援を受けられるのは、症状が進行してからというのが一般的。北村さんもワンキーマウスの利用支援を受けられるようになるまで、1年ほどパソコンやスマートフォンが使用できない期間がありました。
※3 情報通信技術、Information and Communication Technologyの略称

本格的なICT支援が行われるまでの、橋渡しとなるようなサポートはできないか。そう考えた新潟県長岡保健所では、AlexaやEcho Showを活用した、ALS患者さんへの早期ICT支援事業を始めました。

腰高くらいのタンスの上に置かれた白いEcho Show8。その横に白い直方体の器具(スマートリモコン)がある
北村さん宅にあるAmazon Echo Show 8。家電を操作するために、Alexa対応スマートリモコンも併用している

なぜ、Amazon Echoを選んだのか。新潟県長岡保健所の大井麻耶加さん(保健師)は、その理由を次のように説明します。

「障がいがあってもなくても、便利な機器は、病気になった初期段階から心理的な面においても抵抗なく使えるのではないかと思いました。また、専門機器を用いた支援には高度な専門技術を必要とします。Echo Showのような汎用ICT機器は、使い方が簡単で気軽にサポートできるため、支援の輪を広げられると考えました」(大井さん)

Alexaを使うようになってから生まれた毎日の変化

声で操作できる機器ということで、初めからAlexaに興味津々だったという弘さん。幸いにして、弘さんは発声への障がいがほとんどなかったため、Alexaにもすぐになじむことができたそうです。

机の上にあるEcho Show8に呼び掛ける椅子に座った男性
Echo Show 8でAlexaに話しかけて星占いをチェックする弘さん

「それまでは、テレビやエアコンをつけるのも、家族に頼まないとできませんでしたが、Alexaに頼めば、家族に頼らずとも自分1人でできます。これがすごくうれしくて、便利だなと思いましたね。家電の操作だけでなく、音楽を聴いたり、ラジオを聴いたりもしています。あと、毎朝の日課として、発声のリハビリを兼ねて、Alexaにいろいろと話しかけるということも行なっています。『アレクサ、おはよう。今日の天気は?』や、毎朝Echo Showに表示される名言、クイズや星占いなどを聞いています」(弘さん)

Alexaの利便性を実感しているのは、弘さん本人だけではありません。妻の秋江さんにとっては、特にビデオ通話機能が便利に感じられたそうです。ディスプレイ付きのEcho Showなら、同じEcho Showシリーズのデバイスや、Alexaアプリをインストールしたスマートフォンに、「アレクサ、●●に呼びかけて」と声をかけるだけで自動的に相手とつながり、ビデオ通話をすることができます。

ショートカットの女性が部屋の中で話をしている
弘さんの妻の秋江さん

 「夫はスマートフォンを使えなくなっていたので、Alexaがあれば、私が外出していても、顔を見ながら会話ができる、相手の様子をうかがえるというのが本当にありがたいです。例えば、この間も外出中に地震が起きて、家の方は大丈夫かな?と心配になったのですが、すぐに夫から『こっちは大丈夫だよ』とビデオ通話がきて。その表情で本当に大丈夫そうだということがわかったので安心して、やっぱりAlexaは便利だなって思いましたね」(秋江さん)

 最近はこのビデオ通話機能を活用して、2人でバーチャル散歩を楽しんでいると弘さんは言います。

 「近頃は足が弱くなって、なかなか散歩に行けないのですが、妻の趣味がジョギングなので、外を走っている最中に『お父さん、山の景色がきれいだよ』と、スマートフォンを通じて景色を見せてくれるんです。私も昔はアルペンスキーや釣りをやっていて、山や川の景色が好きなので、それが楽しくて、うれしい気持ちになっています」(弘さん)

弘さんはワンキーマウスを使ってタブレット端末を操作することができるため、最近では秋江さんに撮影してもらった山などの写真をソーシャルメディアに投稿するということを始めたそうです。

そうした弘さんを見守る秋江さんは、「病状が進み、夫もやりたいことができなくて苦しい時期があったので、いまは安心しています。Echo Showに触れることで、自分で調べたり、考えたりする時間が増えて、生活が忙しくなってきているというか。いろいろなことに興味を持つきっかけにもなっていますし、本当によかったなと思います」と笑顔を見せました。

患者の皆さんをサポートしている大井さんは、AlexaやEcho Showを通じて、患者の皆さんやご家族の気持ちがどんどん前向きになっていく様子を肌で感じたといいます。

ソファーに座る男性の対面で座る女性が談笑している
弘さんと談笑する新潟県長岡保健所の大井麻耶加さん(写真右)

 「難病を患うと外出が困難になりますが、ICT機器を使用すれば世界とつながれます。発病によりどうしても気持ちが沈んでしまう患者様とご家族の皆さんには、AlexaやEcho Showでワクワクする体験をし、生活や生きることに楽しみを見つけてほしいと思います」(大井さん)

患者さんが人生を主体的に歩めるよう、その第一歩をAlexaがサポート

本事業の構想段階からさまざまな助言や支援を行なっている、国立病院機構新潟病院の中島孝院長(脳神経内科医)と、作業療法士の早川竜生さんのお二人に、難病治療の専門家の立場から見たAlexaやEcho Showの可能性、そして今回の取り組みの意義について伺いました。

長年、難病治療の研究に取り組んできた中島院長は、ALS患者さんへのICT 支援の必要性について次のように説明します。

会議室のような部屋で椅子に座り話をするメガネをかけたスーツ姿の男性
国立病院機構新潟病院 中島 孝 院長

 「ALSの病状が進行していくと、手や足が動かせない、発声もできなくなる。すると、テレビやエアコンをつける、といったことにも人手が必要になります。しかし、生活のすべてを他人に依存しなければいけない状態というのは、患者さんにとっては大きなストレスです。人の力を借りながらも、自ら意思伝達をして要望を伝えたり、自分で家電を操作したりできるようになることで、患者さんは自分の人生を主体的に歩めるようになります」(中島院長)

Echo Showについては、新潟県長岡保健所の大井さんからの勧めで初めて使ってみたところ、すぐにそのメリットを理解したそうです。

「これまで、ALSなど重度肢体不自由者へのコミュニケーション支援は、パソコンと環境制御装置とインターネットを使って行われてきたのですが、Amazon AlexaとEcho Showは、それらの要素を一挙に実現しているように感じました。音楽を聴いたり、動画を見たり、ショッピングを楽しんだり、パソコンやスマートフォンに近いことができますが、音声で簡単に操作できる点が優れています」(中島院長)

早川さんは、作業療法士としての観点から、ALS患者ご自身だけでなく、家族も便利に使えることを、AlexaとEcho Showの魅力として挙げました。

病院の会議室で窓を背に座っているメガネをかけた男性が話している。濃いグレーの医師のユニフォームを着ている。
国立病院機構新潟病院 作業療法士 早川 竜生さん

「ICT機器を導入した時に、患者さんだけがその機器に詳しくなってしまうと、家族が支援者としての立場をなくしてしまうんですよ。AlexaやEcho Showは患者さんだけでなく、ご家族も恩恵を受けられて、一緒に楽しんで使える。家族を置いてきぼりにしません」(早川さん)

 そして「使い勝手」という観点からも、次のようなメリットがあると言います。

「ALSの患者さんにとって、新しい機器やソフトウェアの操作方法を習得することは、大変なストレスになります。その点、Echo Showは操作方法がシンプルですし、ハードが新しくなっても、同じ操作で使用できます。機種にかかわらずAlexaアプリを通じて同じサービスを変わらずに受けられるという点は、とても魅力的だと感じます」(早川さん)

発声ができなくなっても、Echo ShowはBluetoothと接続できるので、ワンキーマウスのような装置で引き続き利用できる、そういった点にも中島院長はAlexaへの可能性を感じていると話します。

「今回のプロジェクトの仕組みをモデル化して、マニュアルを作成すれば、まだ使用を開始されていないALS患者さんやご家族、その他の重度肢体不自由者の方々にも活用されやすくなるのではないかと考えています」(中島院長)

Alexaがすべての人にとってよきパートナーとなれることを目指して

Amazon Alexa インターナショナル技術本部本部長の福与直也さんは、ALS患者さんの生活サポートにAlexaやEcho Showが活用されていることについて、次のように話します。

会議室のような場所で椅子に座り話をしている紺色のカジュアルスーツ姿の男性
Amazon Alexa インターナショナル 技術本部本部長 福与直也さん

 「海外では、Alexaが視力や四肢の機能に障がいを抱えている方々の日々の生活をサポートしているという事例が、数多く存在しています。Alexaは音声でコントロールできます。さらに、ディスプレイを搭載したEcho Showではタッチ操作や字幕機能などのユーザー補助機能を使っていただくこともできます。

今回の新潟県長岡保健所との取り組みはAmazonにとっても非常に学ぶことが多く、Alexaが国内でもより幅広く、さまざまな課題を抱えるお客様のお役に立てることを確信しました。今後もお客様の生活をより豊かにするために、このような取り組みを積極的に行っていきたいと思っています」

これからも、Amazonはお客様のご意見に耳を傾け、AlexaがALSなどの難病患者の皆さん、障がい者の方、そしてすべての人にとって、よきパートナーとなれるように開発を進めていきます。

そのほか、Amazonのアクセシビリティへの取り組みやAmazonデバイスの活用例を紹介した記事をこちらからお読みいただけます。

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