「年間2,000~2,500人の子どもたちが、小児がんと診断されています。生活習慣に起因するものでもないため、小児がんの原因はほとんど解明されていません。『子どもががんになることがあるんですね』と驚かれることもあるほど、小児がんについては知られていないんです」と語るのは、認定NPO法人ゴールドリボン・ネットワークの山崎宴子さん。
彼女はボランティアスタッフとして、小児がんの経験者とその家族に接しながら支援する役割を担当している。彼女がゴールドリボン・ネットワークで活動するようになったのは、長女が小学校1年生の時に小児がんと診断され、家族で力を合わせてがんと闘った経験があるからだ。
「12年ほど前に、娘が小児脳腫瘍と診断を受けました。当時3歳だった息子を病院に連れて行きましたが、兄弟であっても娘の病室に入ることもできませんでした」
治療に対して詳しい説明が行われなかったことから、山崎さんは当時の病院へ不信感を募らせていった。夫は責任ある仕事に就いたばかりで、長期休暇を取ることができなかった。そのため、息子を義理の姉に預け、娘を北海道の病院へ転院させ、自分も北海道に滞在することを決断。家族はバラバラに暮らさざるを得なかった。
「小児がんの治療は厳しく辛いものです。髪の毛は抜け、嘔吐し、食べることも飲むこともままなりません。本当に娘はがんばりました。娘が退院したことで再び家族で生活できるようになりましたが、娘には今も晩期合併症があります。大学生になった今でも、症状をコントロールするために日常的に薬や注射が必要な状態です」
晩期合併症とは、成長や時間の経過に伴って主に、薬物療法、放射線治療などの影響によって生じる、成長期に厳しい治療を受ける小児がん特有の現象で、小児がん治療後、約半数の子どもに起こると考えられている。
「晩期合併症の子どもたちは、見た目ではわかりにくいので、生活に様々な支障があっても、周囲からの理解が得られにくく、障害者手帳を取得することができない人もいます。そして治療の影響から発生する二次性がんになる可能性におびえながら暮らさなければなりません。そうした私たち家族が経験してきたことや、小児がんの抱える問題をもっともっと多くの方に知ってもらいたい。小児がんと診断されたお子さんとそのご家族の力になりたい。そう考えて、ボランティアをしています」
現在は、入院中の支援として、自宅から離れた病院で治療を受けなくてはならなくなった家族へ交通費の助成(小児がん交通費等補助金制度)、入院中の子どもへのニット帽のプレゼントを行うほか、退院後の支援として経済的な理由などにより就学困難な小児がん経験者を支援する返済不要の給付型奨学金制度(はばたけGRN奨学金制度)のほか、就労移行支援として、障害者手帳を取得できない小児がん経験者の相談に乗るなどの活動を行っている。
そして今年初めて、Amazon Goes Goldの活動にも参加した。
Amazonでは、9月の世界小児がん啓発月間に合わせ、「Amazon Goes Gold」というキャンペーンを展開し、世界各地のオフィスや物流拠点のフルフィルメントセンター(FC)で、小児がんの子どもたちとその家族を支援する活動を行うとともに、小児がんの子どもたちの気持ちに寄り添うために、一日中パジャマで仕事をする「パジャマ・デー」などを実施している。
今年は山崎さんが所属するゴールドリボン・ネットワークの協力を得て、神奈川県立こども医療センターに、Amazonオペレーション部門が造った「モバイルFC」を派遣。小児がんだけでなく、そのほかの病気で入院している子どもたちにFCでの商品梱包体験とおもちゃや本などをプレゼントするイベントを企画した。
イベント当日は、神奈川・川崎FC、東京・目黒オフィス、千葉・市川FCのスタッフ約20名が集まった。そして頼もしいサポーターとして、Amazonのミュニティパートナーとして地域貢献活動を共に行っているプロサッカーチームの川崎フロンターレから、マスコット「フロン太」が参加してくれた。
9月27日金曜日の午後、昼食を済ませた子どもたちや、病院内にある学校で授業を終えた子どもたちが、病院内の中庭にやってきて、駐車しているモバイルFCを見つけると歓声が上がった。
歩いてモバイルFCに乗り込める子どもたちは、車内に搭載されたAmazonロボティクスの棚から好きなものを選び、Amazonの段ボールに入れて紙テープを貼る梱包を体験。段ボールの大きさに合わせてカットされる紙テープが飛び出す様子に楽しそうに、そして興奮した表情を見せた。
車椅子で訪れた子どもたちは、Amazonのスタッフと触れ合いながら、テーブルの上から好きなものを選び、段ボールに入れて持ち帰った。屋外に出られない子どもたちのためには、院内に家族と記念撮影ができるフォトブースを設置し、AmazonのFCで商品撮影を行っているスタッフたちが撮影を担当した。また、病室で待つ子どもたちには、直接プレゼントを届けに行き、入院中の約400人の子どもたちにプレゼントを贈ることができた。
イベント中、子どもたちをやさしく見守っていた神奈川県立こども医療センター病院長の猪谷泰史さんは、「今日はどんなイベントになるのかなと思っていましたが、すごいセットで、まるで本当に物流センターに子どもたちが来たような雰囲気になっていたと思います。子どもたちが自分で欲しいものを選んで、箱に詰めて持ち帰るというのがとても良くて、おそらく子どもたちは病棟に帰って、箱を開いてみんなで見せ合うことですごくワクワクした時間になったと思います」と笑顔を見せた。
同じくイベントに参加した同医療センター・小児がんセンターの医師、後藤裕明さんは、「子どもたちは、病院で家族から離れ、友達からも離れて孤独に闘っています。そんな子どもたちにとって、サポートしてくれる人たちが病院の外にもいると実感できることは子どもたちの力になると思います」と語り、病気の子どもたちへの支援の必要性に対して「子どもの病気は、大人の病気に比べると患者数が少ないことから、研究が遅れがちです。子どもたちの病気についてもっと多くの人に知っていただき、関心を持っていただけば状況は変わっていくはずです」と話しました。
終始笑顔で子どもたちと交流をしていた、アマゾンジャパンFC事業部統括本部の島谷恒平さんは、「実際に私もお子さんたちと体験させていただいて、直接プレゼントを手渡して非常に楽しく、心がドキドキするプログラムでした。これからもAmazonらしいクリエイティビティで、コミュニティーの人たちと積極的につながっていきたいと思います」と充実した表情を見せた。
Amazonの社員たちと一緒に病室にもまわり、子どもたちの様子を見守った山崎さんは「入院しているお子さんだけではなく、付き添いのお母さんやご兄弟の笑顔、ワクワクしている様子が見られてとてもよかったです」と話し、「病気の子どもたちに必要な支援は、一人一人によって異なりますが、少しの支援があれば、社会でしっかりと生きていくことができるはずだと思っています。より多くの人たちに小児がんのことを知ってもらいたい、小児がんを経験した人たちが自立していけるよう社会の支援が必要だということを伝えていきたいです」と小児がんの子どもたちへのさらなる理解を呼び掛けました。