「自分の作品を見てもらえる、自分の作品が本になっている、こうした喜びも彼らの制作の原動力になっています。彼らにできるだけ長く描き続けてもらいたい。それが私たちの願いです」
「ワーオ、いいね」「すごいね。よく描けてる」。メンバーが描いた絵を見た松本進さんの声が弾む。月に一度、静岡県藤枝市内で行われるワンダフルアートコミュニティ、通称waC(ワック)の光景だ。
waCは、特別支援学校を卒業した障害を持つ人たちのアートグループ。静岡県内の特別支援学校で美術の教師をしている松本さんと、元同僚の吉田恵美子さんの二人が生徒たちが描く絵にほれ込み、彼らの才能を埋もれさせたくないという思いで開始した。2012年にわずか8人だったメンバーは、現在では20人を超えている。静岡県内で展示会を行うほか、今年初めて他県の美術館での展覧会に参加するなど、活動範囲も徐々に広がりつつある。
waCメンバーの作品 |
机に並べられた色とりどりの絵具やクレヨン、パステル、マーカー、色鉛筆などの中から、お気に入りの画材を選び、のびのびと作品に取り組んでいる。絵を描いている時の彼らは真剣そのもの。メンバーの個性を引き出せるように指導するのが松本さん、家族とスタッフをつなぎ全体をまとめるのが、吉田さんの仕事になっている。自由で和やかな雰囲気のなかで、カラフルで個性的な作品が部屋のあちこちで生まれていく。
「彼らは学校を卒業し就職してしまうと、絵を描く機会がなかなか持てません。住む地域が離れていることもあり、友達同士でも会う機会が少なくなってしまうのです。そんな彼らに、家庭と職場以外の第3の場所としてwaCを提供できることもこの活動の良さだと思っています。気の置けない仲間と一緒に過ごせるこの場所は、メンバーはもちろん、メンバーの家族や私たちにとっても、楽しい大切な場になっています」と吉田さん。
活動中のwaCの様子 |
メンバーのご家族も、「waCに参加するようになってから、子どもの笑顔が増えましたし、お友達と一緒に描くことで絵が上手になってきたと思います」と笑顔を見せる。
活動開始以来、もっと多くの人に作品を見てもらうために作品集を出版したいというのが吉田さんたちの夢になっていた。しかし、費用の問題や出版後の在庫管理をどうするかが壁となり、前に進めずにいた。
その問題の解決策となったのは、注文ごとに本を印刷し発送するAmazonプリント・オン・デマンド(POD)だった。waCのスタッフの1人がAmazonのPODでカラー印刷が可能になったことを知り、吉田さんたちに提案。すでに電子書籍として出版していた第1集『waCアート作品』をPODで販売できるようにしたのだ。
「PODで印刷された本を手にしてみて、やっぱり良いと思いました。目の前にいる人にすぐに手に取って作品を見てもらえますし、デバイスがなくてもその場でお見せすることができます。遠隔地にお住まいの方にもご購入いただけました」と吉田さん。
吉田さんたちは、2017年に出版した第1集に続いて、2018年春には第2集を発行した。松本さんが、第1集と第2集をメンバーたちに手渡すと、拍手と歓声がわきあがった。自分の絵を本の中に見つけると、うれしそうに指さす。
「自分の作品を見てもらえる、自分の作品が本になっている、こうした喜びも彼らの制作の原動力になっています。彼らにできるだけ長く描き続けてもらいたい。それが私たちの願いです。これからも出版を続け、もっと多くの人に彼らの作品を知っていただきたいと思っています」
『ART WORKS - waC- VOLUME.1』はこちら
『waC ART WORKS VOLUME.2』はこちら
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