2022年初め、ロシアの戦車と軍隊がウクライナ国境に集結する中、ウクライナ政府は自国と国民を守るための具体的な準備を開始しました。同時に、ウクライナ国家や国民の重要な記録であるデータを保護するためのデジタル基盤の強化が、水面下で進められていました。

ロシア軍の侵攻前、ウクライナでは、特定の政府データや一部の民間企業のデータをウクライナ国内にあるサーバーに保管することが法律で義務付けられていました。ロシア軍が侵攻する1週間前、ウクライナ議会は政府と民間企業のデータをクラウドに移行することを認める法案を可決しました。このクラウドへのデータ移行の実現のため、ウクライナの指導者は支援を募りました。AWSは、真っ先に支援を表明した組織の1つです。
※クラウドコンピューティング:ITリソースを必要なときに必要な分だけインターネット上で利用できるサービス

Amazonはウクライナの救援組織と緊密に連携するとともに、サイバーセキュリティに関する支援を行っています。

AWSは、災害対応や紛争に至るまでのウクライナの組織のサイバーセキュリティ防御の構築を支援した経験があるため、AWSの技術エキスパート(ソリューションアーキテクトを含む)は、キーウ在住の政府職員やヨーロッパ中のウクライナの代表者と安全なコミュニケーションを迅速に確立することができました。侵攻があった2月24日(木)、AWSの公共部門チームのメンバーは、ウクライナ政府のメンバーと会談を行い、AWSのSnowball(スノーボール:安全なデバイスを使用して AWS クラウドの内外に大量のデータを転送するペタバイト規模のデータ転送サービス)をウクライナに運び、データの確保、保存、クラウドへの移行を支援することを話し合いました。
※1ペタバイト=約100万GB

木曜日に会談が行われ、土曜日の朝にはポーランドのクラクフ、その日の夜遅くから日曜の早朝にかけてウクライナの目的地にSnowball一式が届けられました。このSnowballが、ウクライナのデータ保護の基盤となりました。時差や言語の壁を越えて、AWSのソリューションアーキテクトはウクライナの技術担当者と協力し、ウクライナ政府の重要データを安全にクラウドへ移行するプロセスを迅速に開始し、膨大な量のデータをローカルサーバーからAWSデータセンターへ移動させました。

緊急のニーズに対応しながらも、新しい最先端のクラウド技術によって強化された、より良いウクライナの構築、という将来像を見失っていません
ヴァディム・プリスタイコ
駐英ウクライナ大使

紛争が4か月目に入る中、AWSが、27のウクライナ政府機関、18の大学、数十万の避難民の子どもたちにサービスを提供するK-12(小中高校生)向けの最大規模のリモート教育、その他数十の民間企業から移行した重要データは10ペタバイト(1,000万GB)以上にのぼり、今もデータを追加し続けています。現在、AWSへの政府データの移行は61件あり、今後も増える見込みです。

ウクライナのデータを保護することは、この大規模な取り組みの重要な推進力ですが、さらに重要なことは、このデータがウクライナの人々を助けるためにどのように利用されているかでしょう。たとえば、教育科学省から学位や大学のカリキュラムに関するデータをクラウドへ移行することで、何千人もの学生が就職活動や別の学位取得を目指す際に、自分の学歴の妥当性を証明することができます。また、この取り組みは、学生がポーランド、モルドバ、ウクライナのどこにいても、学期末に行われる最終試験を受けるのに役立っています。さまざまな分野の科学者が、数十年にわたる努力とデータに基づく研究をクラウドに移行し、その成果を保存し、研究を継続できるようにしています。ウクライナの紛争地域に近い原子力発電所周辺の大気質、特に放射線レベルを監視する研究をAWSは支援しています。

An image of a crowd of people. There are Ukraine flags throughout the crowd and yellow and gold colors showing up on clothing and other items throughout.

ウクライナの土地台帳のデジタル化により、国家の継続性が確保されます。AWSは、市民が不動産の面積、場所などの詳細情報にリモートでアクセスできる自動化されたシステムの構築をサポートしました。このデータの保存は、自身の財産を投資した人々にとっても、ウクライナの将来の復興にとっても不可欠なものです。誰がどこに何を所有しているのかを安全に記録することができるため、この取り組みにより近隣地域や都市全体の再建を支えていきます。

民間企業も同様にクラウド移行を進めています。ウクライナの人口の40%が利用しているウクライナ最大の民間銀行PrivatBankは、戦争が激化するに伴い、すべての業務をクラウドに移行しました。同行の技術チームはAWSと協力して、270のアプリケーションとウクライナの3,500台のサーバーにある4ペタバイトの顧客データを、45日以内に安全に移行しました。IT部門責任者であるMariusz Kaczmarek氏によると、移行の理由は 「ウクライナの各地域にある、戦争で破壊されつつあるハードウェアへの依存を減らすためです。今後もこの方法で運営を続けていくつもりです」とLinkedInの投稿で述べており、戦争が終結しても、Kaczmarek氏は過去のやり方に戻る必然性を感じていないようです。PrivatBankの顧客は、現在、資金や銀行のサービスにオンラインでアクセスできます。「通常どおり」と言える状況ではありませんが、PrivatBankはビジネスを続けており、同じことがウクライナ政府にも言えます。

物理的な破壊があっても、政府は国民に奉仕することができます。多くの戦争や自然災害では、このようなことはできませんでした。国民や政府が再建を始めたとき、ほとんど最初からの作業を余儀なくされることが多い状況でした。このような背景から、現代の戦争ではデータが標的となり、またデータを保護することが極めて重要になっています。戦争終結後、クラウドに移行したデータにより、ウクライナの人々が望む生活や国家を再建することができます。

「私たちは、戦争とはこういうものだ、すべてが破壊され、何もないところから再建しなければならないと思っていました」と、AWSの公共部門 ガバメント・トランスフォーメーション・チームのディレクターで、ウクライナを支援するAWSの活動にボランティアとして参加しているリアム・マックスウェルは話します。「しかし、安全かつセキュリティの確保されたクラウドに移行することで、政府とその市民サービスは困難に打ち勝つことができます」

「AWSチームと仕事を始めたその日から、ウクライナの人々を助け、外部の混乱にもかかわらず政府が仕事を続けられるようにするという彼らの姿勢に感銘を受けました」と、駐英ウクライナ大使のヴァディム・プリスタイコ氏は述べています。「素晴らしいことに、緊急のニーズに対応しながらも、最先端のクラウド技術によって強化された、より良いウクライナを構築するという未来像を決して見失っていません」

AWSは、ウクライナ政府および他の民間・公共団体と共に、ウクライナの人々への支援を続けていきます。私たちは、今後も救援活動を支援し、私たちの技術的な専門知識とサービスを必要としている人々に提供していきます。

※この記事は、2022年6月10日に米国版About Amazonで発表された記事を翻訳したものです。

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