「子どもは、どんな状況でもどんなものに対しても、わくわくできる素養を持っています。本来もっているものをいかに引き出せるのか。テクノロジーはこの点で大きな力になります」
2月27日、日本政府が新型コロナウイルス感染症対策のための小中高校への一斉臨時休校の要請を発表して以来、子どもたちが自宅で学びを継続するための支援の輪が急速に広がっている。その最前線で子どもたちの学びの新たな方法を支援しているのが、教育分野のテクノロジー(EdTech)企業だ。
「シンクシンク」は、子どもたちに学ぶ面白さを伝えたいと、数学オリンピックの問題作成・解説を担当するワンダーラボ株式会社 代表取締役 川島 慶氏によって開発された思考力育成アプリだ。アマゾン ウェブ サービス(AWS)が次世代のオンライン学習、分析、キャンパス管理ソリューションの構築に取り組むスタートアップ企業を支援するスタートアップアクセラレータープログラム「EdStart」(エド・スタート)にも参加する同社のアプリは国内外で高い評価を得ているほか、カンボジアでは国際協力機構(JICA)と同国政府の協働案件として「シンクシンク」を活用した思考力教育の導入が進められている。
ワンダーラボは臨時休校要請が出されて数時間後に、「シンクシンク」の有料コースを含むすべてのコンテンツを1か月間、全世界で無償提供することをSNSで発表した。このツィートは3万以上の「いいね」がつき、「臨時休校1日目でぐったりしていた私に朗報です!!」、「来週からの家での過ごし方の選択肢が増えました!」など、一斉臨時休校要請という初めての事態に戸惑う保護者たちから喜びのコメントが数多く寄せられた。
ワンダーラボ執行役員CMO徳丸晃大さんは、「シンクシンク」の無償提供を決めた理由について、「『シンクシンク』の延べユーザーは150か国、120万人に広がっており、中国にも多くのユーザーがいます。日本よりも先に新型コロナウイルス感染症が深刻化した中国の状況を報道などで知った頃から、会社でも何かしたいという検討を始めていました」と語る。「臨時休校の要請が発表されたタイミングで、ささやかですが、少しでも不安な気持ちや退屈な気持ちのまま家庭で過ごしている子どもたちに、『わくわく』するような学習の時間を提供したいと無償提供を決めました。この機動力は、当社のようなスタートアップならではの良さかもしれません」
一斉臨時休校が始まった3月1日からの1週間、「シンクシンク」は通常の20倍ものダウンロード数を記録し、1日のアクティブユーザー数も3倍に達した。AWS上で稼働する「シンクシンク」は急速なアクセス増にもスムーズに対応した。徳丸さんはこれを「ご家庭でタブレットやPCを使って学習をする体験をしていただけたことは、業界全体にとってポジティブなインパクトがあった」と分析する。「インターネット上でも無料で利用できる学習サービスを紹介するサイトが次々とでき、普段はオンライン学習を利用していないご家庭もこうした情報を探していると感じました。『シンクシンク』のユーザー層も広がりましたが、子どもたちの学びのチャネルが大きく広がったと感じます」
「シンクシンク」の無償提供期間は終了したが、ワンダーラボでは現在も引き続き、無料のまま利用できるフリーコースを提供している。また、5-10歳を対象にした思考力を育てる特別問題集の無償配布や、世界的な算数大会の問題制作チームによる多彩なオリジナル問題の出題(毎日1問)、同社が今年4月から開始する新たなSTEAM教育*の通信教育サービス「ワンダーボックス」のオンライン体験会を継続しているほか、4月から新たに10分程度の教育動画「プチワンダータイム」も開始し、ファンを増やしている。
*STEAM教育:Science科学、Technology技術、 Engineering工学、Artsリベラルアーツ、Mathematics数学等の各教科での学習を実社会での課題解決に生かしていくための教科横断的な教育
「私たちは、即断即決で意思決定するので、反響の大きさが読めないときでもAWSを利用することで自動的に仮想サーバの稼働台数を増減できるのはサービス提供、そしてコスト管理の面からも安心できました。また、AWSのスタッフの皆さんの柔軟な対応にパートナーとして信頼を寄せています」と徳丸さんは振り返る。
「世界中の子どもが本来持っている知的なわくわくを引き出す」ことをミッションとして掲げるワンダーラボにとって、テクノロジーは第一目的ではない。子どもの好奇心を引き出すための手段だという。だからこそ、「ワンダーボックス」では、毎月届くキット(ワークブックやパズルなど)と専用アプリを組み合わせて学ぶカリキュラムにしている。
「子どもは、どんな状況でもどんなものに対しても、わくわくできる素養を持っています。本来持っているものをいかに引き出せるのか。テクノロジーはこの点で大きな力になります。対面での研究授業を通じて培った現場感覚と、機械学習(ML)などのテクノロジーを活かし、子どもたちが思考を通じて、知的に躍動する経験を届けていきたい。こうして育った子どもたちが、予想もつかないような未来を切り拓くことにつながっていくと信じています」
AWS のパートナーが無償支援を行っているサービスをご紹介する「日本おうえんプロジェクト」はこちら