AWS(アマゾン ウェブ サービス)は、2025年4月16日に、2024年度のAWSジャパン生成AI実用化推進プログラムの成果と、2025年度の同プログラムの受付開始を発表しました。

AWSジャパン生成AI実用化推進プログラムとは、2023年に実施した大規模言語モデル(LLM)に特化した開発支援プログラムを発展させ、2024年7月に開始した日本独自のサポートプログラムです。

企業や研究機関、官公庁などから「AWSの生成AIを試してみたい、利用を始めたい」という参加者を募り、生成AIの導入、独自開発などに技術面、費用面での支援を行うプログラムです。2024年度は、150社以上が参加しました。

このプログラムのユニークな点は、生成AIの実用化をAWSが技術面や費用面でサポートだけではなく、生成AIコミュニティをつくり、発展するようサポートするところです。開発者のための勉強会を開催するなど、業界横断的に開発者をつなぐ場を醸成し、日本での生成AIの実用化と開発者の技術力の向上を推進しています。

この記事では、2024年AWSジャパン生成AI実用化推進プログラム成果発表会で発表された内容を紹介し、生成AIの活用を開始した企業のモデルケースや、生成AI活用のヒントを探り、2025年度の募集についてもお伝えします。


日本での生成AIの利用状況

2024年に総務省が、5か国を対象に実施したインターネットによる調査「デジタルテクノロジーの高度化とその活用に関する調査研究」では、各国の生成AIの浸透度が報告されました。生成AIの利用経験を尋ねたアンケートでは、使っている/使ったことがあると回答した割合が、中国56.3%、アメリカ46.3%、イギリス39.8%、ドイツ34.6%、日本は最も低く9.1%という結果でした。また、生成AIを使わない理由として各国ともに最も多かったのは、「使い方がわからない」でした。この調査結果からは、日本を含め、生成AIの利用がまだ進んでいない現状が見えてきます。

2024年AWSジャパン生成AI実用化推進プログラムの参加者像

2024年にAWSジャパン生成AI実用化推進プログラムに参加した企業・団体は大きく分けると、自社独自の生成AIモデルの開発を希望する「カスタムモデルの開発・改良に取り組む、モデル開発者」(AWSによる支援例:分散学習環境構築、推論環境構築、データセット整備、実用化・協業支援)と、既存の生成AIモデルを活用して、課題解決に臨む「生成 AI でプロダクトのイノベーションに挑戦する、モデル利用者」(AWSによる支援例:製品戦略策定、モデル選定・カスタマイズ、データ整備・適用、システム化・最適化)に分けられます。

2024年のAWSジャパン生成 AI 実用化推進プログラムでは、「カスタムモデルの開発・改良に取り組むモデル開発者」には30以上、「生成 AI でプロダクトのイノベーションに挑戦するモデル利用者」には120以上の企業・団体などが参加しました。その分野は、実に幅広く、IT業界のほか、製造、教育、ヘルスケア・介護、広告・マーケティング、金融、人材、メディアエンタテインメントなど、さまざまな分野で生成AIの活用が望まれていることがわかります。

オフィスで働く人々を背景に、左側下半分は青紫のグラデーションに白で「カスタムモデルの開発・改良に取り組むモデル開発者30社以上」文字、右側下半分は赤紫のグラデーションに白で「生成AIでプロダクトのイノベーションに挑戦するモデル利用者100社以上」の文字

生成AIによる課題解決のステップ

生成AIを使った課題解決のフェーズには、大きく分けて3つのステップがあります。

①「プランニングフェーズ」:業務に対するAI適用の戦略策定から、ソリューション実現の技術方針決定を行ないます。
②「開発フェーズ」:カスタムモデル開発とファインチューニングを行う「モデル開発」と、既存モデルを組み込んでシステムを開発する「モデル利用」の2つの方向性があります。目的やチーム編成によって、方向性を判断します。
③「展開拡大フェーズ」:開発したプロダクトやサービスの認知向上、販路確立、顧客獲得を行ないます。

2024年のAWSジャパン生成 AI 実用化推進プログラムの参加者は、主に②の開発フェーズにあり、その中で利用目的が「モデル開発」と「モデル利用」の2つに分かれました。

生成AIによる課題解決のステップを、3つのフェーズに分けて説明した図。左からプランニングフェーズ、開発フェーズ、展開拡大フェーズという流れで、フェーズ名の下に各フェーズでの事例が記載されている。

2024年のAWSジャパン生成 AI 実用化推進プログラムに参加した5社の取り組み

では、実際にAWS生成AI実用化推進プログラムには、どのような業種・規模の企業がどのような目的をもって参加したのでしょうか? 生成AIの分野では、技術感度が高いスタートアップが生成AIに関する取り組みを先行しているイメージがありますが、今では生成AIの活用は技術感度が高い企業にとどまりません。すでにさまざまな業種・規模の企業がAWSと共に生成AIの活用を開始しています。

発表会当日は、150以上の参加者の中から、特に興味深い取り組みを推進した5社が2024年の成果を発表しました。

モデル開発を行った取り組みでは、株式会社野村総合研究所が金融業界に特化したモデルの開発を試み、その構築、検証や、具体的なユースケースでの実装のための評価などについての発表を行いました。また、国土交通省は、省内のデータ整備と活用、オープンデータ化をめざすプロジェクトでの活用について発表を行いました。

また、モデル活用を行った取り組みでは、株式会社NTTデータが、生成AIとAIエージェントを活用し、広告作成プロセスを半自動化するプロジェクトを発表しました。フリー株式会社は、自社の会計SaaSプロダクト「freee会計」にAmazon Bedrockを活用した新機能「AIクイック解説」を搭載し、リリースを目指す取り組みを発表しました。また、株式会社エイチ・アイ・エスでは、搭乗便の変更やキャンセル料など、商品販売にかかる条件などをAIが回答し、営業カウンター業務の効率を高める取り組みを発表しました。

当日行われたプレゼンテーションの発表者とテーマは次のとおりです。

開発フェーズ:モデル開発の取り組み

株式会社野村総合研究所
AIソリューション推進部 大河内悠磨 氏
「特定の業界やタスクに特化した業界・タスク特化型モデルの開発と評価」

国土交通省
総合政策局情報政策課 総括課長補佐/Project LINKS テクニカルディレクター 内山裕弥 氏
「国土交通省のデータ整備・活用・オープンデータ化プロジェクト『Project LINKS』における、LLMを使ったデータ自動構造化の課題と展望」

開発フェーズ:モデル利用の取り組み

株式会社NTTデータ
テクノロジーコンサルティング事業部課長代理 藤田森也 氏
「各タスクを多段階のフローで実施しながら、必要な情報をAIが能動的にユーザーに問いかける仕組みが特徴となる、クリエイティブ作成やデザイン案検討を支援するマルチエージェントソリューションを開発」

フリー株式会社
AIプロダクトマネージャー 木佐森慶一氏
「クラウド会計ソフト『freee会計」の付加価値を向上する、損益計算書を分析・解説する機能の開発」

株式会社エイチ・アイ・エス
DX推進本部 サービスプラットフォーム企画部 李 章圭 氏
「AIを活用した商品販売条件書読み取りによる業務改善」

各発表の詳しい内容は、後日Amazon Web Services ブログで公開されます。


2025年のAWSジャパン生成 AI 実用化推進プログラム募集に向けて3つのコースを設定

2024年のAWSジャパン生成 AI 実用化推進プログラムを通じて聞こえてきたものは、それぞれのステージにいるさまざまな開発者たちの声でした。「このプログラムで生成AIの活用に弾みをつけることができた」という、うれしい声とともにAWSジャパンのチームにとって印象的だったのは、「よりビジネスに直結する分野でもAIが使えそうだが、方向性を決めかねている」というコメントを多くいただいたことです。

こうした参加者の声を基に、AWSジャパンでは、参加者が求めているものと必要なサポートを組み合わせてグループに分類し、2025年のAWSジャパン生成 AI 実用化推進プログラム向けに3つのコースを設定しました。

モデルカスタマイズコース、モデル活用コース、戦略プランニングコースという3つのコース内容を説明した図。コース名の下に対象層と対象層の抱える悩みやニーズがあり、その下に矢印のイラストでサポート内容が紹介されている。

1つ目は、既存モデルよりも高い精度や、目的に応じた応答を得るため、カスタマイズを求める「モデルカスタマイズコース」です。このコースでは、計算リソースの調達支援、実装・事業化までのプロセスを一貫したサポートなどが想定されています。

2つ目は、公開モデルを活用して課題解決を目指す「モデル活用コース」です。このコースでは、具体的な事例共有から、参加者が使ってみたいユースケースを特定し、実用化までを一環してサポートすることが想定されています。

3つ目は、2025年から新設された、生成AIをコアビジネスにも活用したいと考える「戦略プランニングコース」です。このコースでは、業務コンサルテーションから実現までを一気通貫でサポートすることが想定されており、業界の専門知識を持つAWSパートナーとAWSが協働してサポートします。

参加者は、この3つのコースを手掛かりに、AWSのサポートを受けながら自分の希望する生成AIの活用を推し進めることができます。また、年4回、情報発信と共有のためのコミュニティ型イベントも開催が予定されており、学習会などを通じて、さまざまな業種の方々と意見交換などを行える機会があります。

AWSは、AWSジャパン生成 AI 実用化推進プログラムを通じて、一般企業、公共機関、スタートアップ企業など、幅広い分野のお客様に対して、日本における生成AI技術の発展と実用化に向けた支援を、より一層強化していきたいと考えています。


2024年度のAWSジャパン生成 AI 実用化推進プログラムを通して見えてきた生成AI実用の傾向

AWSジャパン生成 AI 実用化推進プログラムを主導する、アマゾン ウェブ サービス ジャパン サービス & テクノロジー事業統括本部 技術本部長の小林正人は、AWSジャパン生成 AI 実用化推進プログラムを通して感じる生成AI実用フェーズの変化を次のように話しました。

「さまざまなお客様とのディスカッションを通じて得られた学びとして、お客様が生成AIを適用したいと考える領域が徐々に変わってきたという点があります。以前は業務効率や従業員満足度向上といった、業種を問わず存在する課題にアプローチする、いわば内部向けの用途がほとんどでした。ですが今は、生成AIでお客様に対して付加価値を届けられないか、という外部向けの用途や、内部向けの用途でもビジネスに直結する課題の解決ができないかという観点への関心が高まりつつあります」

そうした新たな観点でのチャレンジを支援するために、2025年のAWSジャパン生成AI実用化推進プログラムが開始する、あらたな取り組みについても抱負を語りました。

「昨年の枠組みに加えて業務に関する深い知識を持ったAWSパートナー企業と連携することでお客様の戦略立案をサポートする活動に取り組んでいきます。AWSはお客様が生成AIで価値を生み出すために、さまざまな支援を行っていきますので今後もご期待ください」

白い壁を背景に、眼鏡をかけて縦じまのシャツを着用した男性が話している。
アマゾン ウェブ サービス ジャパン サービス & テクノロジー事業統括本部 技術本部長 小林正人

2025年AWSジャパン生成 AI 実用化推進プログラム 概要

参加対象者

AWS で、生成 AI を活用しビジネス課題の解決に取り組む国内の企業・団体

お客様のニーズに合わせた3コースからお選びいただけます

  • 戦略プランニングコース:生成 AI による価値創出に向け戦略策定に取り組む方へ
  • モデルカスタマイズコース:カスタムモデルによる課題解決に取り組む方へ
  • モデル活用コース:公開モデルによるビジネス課題解決を狙う方へ

プログラム実施概要

受付期間:2025年4月16日~(本プログラムは通年での受付を実施しています※1

応募方法:
①お客様のニーズに合わせて該当するコースを選択し、AWS お客様担当者への連絡、もしくは AWSジャパン生成 AI 実用化推進プログラムページ内の Web フォーム(「登録する」)からお申込みください。
②お申込み後、AWS お客様担当チームと個別ディスカッションにて具体的な支援内容とスケジュールをご提案します。
③「戦略プランニングコース」で AI 活用戦略が定まった後は「モデルカスタマイズコース」もしくは「モデル活用コース」へ進みます。

モデルカスタマイズ・活用コースでの共通支援内容

  • 生成 AI 活用の戦略策定から実装までの各フェーズに対応した営業・技術支援
  • 想定コストの半額(50%)を上限とするAWS クレジット※2付与によるコスト負担の軽減
  • 定期的な技術勉強会の開催
  • 実践事例の情報共有と知見の展開
  • 各種イベントでの登壇機会の提供
  • 参加企業間のネットワーキングとビジネスマッチング支援

募集期間:2025年4月16日~ プログラム参加者の募集は通年で行う予定です※1
※1プログラムの変更については予告期間をもって告知いたします。
※2クレジットの受け取りおよび使用にあたっては、AWS Promotional Credit Terms and Conditions が適用されます。また、提供するクレジット額には上限があります。提供するクレジット額は、AWSジャパンにより決定させていただきます。

詳しくは、AWSジャパン生成 AI 実用化推進プログラムのページでご確認いただけます。

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