これからも社員とワイワイ言いながら、お客様に必要とされるサービスを作っていきたいですね
27歳のある日、宮田昇始さんは体調を崩した。次第に耳が聞こえなくなり、顔面麻痺が起こり、平衡感覚も失われて、一時は起き上がることができないほどだった。水疱瘡と同じウイルスが耳の中に感染して起こるハント症候群と判明したが、病状が進行していたため、約2か月間の療養後も顔面麻痺などの症状が残った。
「それまではとても元気だったので、まさか自分がそんな状態になるとは思ってもみませんでした。以前と同じ生活を送ることが困難になり、これからどうやって生きていこうかと真剣に考えました」と宮田さんは当時を振りかえる。
幸いなことに、その後宮田さんの症状は治まりほぼ完治したが、宮田さんはサラリーマンを辞め、起業を決意した。
「一度きりの人生だから、自分のやりたいことをやろうと思いました。具体的に何を作るかはまだ見つかっていませんでしたが、インターネット業界で6年ほど働いてきて、いつかは自分のサービスを作りたいとずっと思っていたのです」
会社をつくり、仲間と共に受託業務をこなしながら、自社開発のサービスをいくつか制作した。しかし、手応えのあるサービスは生み出せないまま2年が過ぎた。
「今思うと、利用者のニーズをとらえないまま、当時の自分たちができることからサービスを作ろうとしていたんです。ニーズがないものがヒットするわけはありません」
宮田さんに再び転機が訪れたのは、奥さんが自宅で産休・育休の手続きをしていた時だった。
「もともと自分は、役所に提出するような書類の記入がとても苦手なので、こうした人事労務の作業を常に行う人事の人や、少人数の会社の社長はさぞかし大変だろうなと思いました。そうした人たちが面倒に思うことにこそ、ニーズがあるはずだと気づいたのです」
宮田さんはすぐに人事労務に関する調査を開始。同時にアマゾン ウェブ サービス(AWS)*を利用して作成したWebサイトで事前登録者を募り、どんなサービスがあったら使いたいか、どんな機能が必要かを尋ねた。その数は100社以上にのぼった。その声を吸い上げ、人事労務をサポートするサービス、SmartHRを形にしていった。2015年11月にサービスを開始し、社会保険・雇用保険の手続きに必要な書類の作成から、役所へのオンライン申請、従業員データベース管理など、徐々にサービスの範囲を広げてきた。その結果、約1年半後の現在では、SmartHRを導入している企業は4900社を超えた。
「SNSなどで『SmartHRって便利』という投稿を見かけると、自分たちのサービスが役立っていると実感できてうれしいですね」と宮田さんは微笑む。単純作業にかかる時間が削減されたことで創出された時間を活用し、新しい人事制度を作った企業もある。そうした改革が日本中で起こることを宮田さんたちは期待している。2020年までに登録企業を12万社に増やすことが現在の目標だ。
「起業当初からAWSを使ってきました。AWSを使うことで情報セキュリティに関する国際基準も滞りなく取得できましたし、すべての情報をAWSで管理しているとお客様に説明すると、すぐに安心していただけることも多いです。また、AWSを使っているシステムエンジニアが多いので、即戦力となる人材が見つかりやすいのも助かっています」
事業の拡大と共にスタッフが増え、今では25人を超える。それに伴い、宮田さんはチームづくりに力を入れている。目指すのは社員一人一人が自律的に考え行動するチームだ。社員全員が会社の方向性に沿った判断ができるようにと、経営会議などを含むすべての会議の議事録を共有し、財務についても社員にすべて公開している。
事業の拡大と共にスタッフが増え、今では25人を超える。それに伴い、宮田さんはチームづくりに力を入れている。目指すのは社員一人一人が自律的に考え行動するチームだ。社員全員が会社の方向性に沿った判断ができるようにと、経営会議などを含むすべての会議の議事録を共有し、財務についても社員にすべて公開している。
起業という挑戦を経たことで、宮田さんは必要以上にリスクを恐れなくなったという。その変化が社員にもよい影響を及ぼし、結果につながっているようだ。
「事業はまだまだこれからという気持ちですが、なんとかなると思える気持ちの余裕ができ、仕事を楽しめるようになりました。これからも社員とワイワイ言いながら、お客様に必要とされるサービスを作っていきたいですね」
*アマゾンウェブサービス(AWS)とは、Amazonが提供するクラウドコンピューティングサービスです。
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